インフルエンザ定点観測イメージ【東京都感染症情報センター】は2010年2月10日、2010年第5週(2月1日-2月7日)時点での東京都内医療機関におけるインフルエンザ(季節性・新型双方合わせた)の疾病報告数定点観測データを公開した。報告数は前週と比べて大きく減少する傾向にあり、絶対数としては昨年末の夏-秋におけるピーク値にははるかに及ばず、全体的な停滞・漸減傾向を継続している。直近では事態は安定・沈静化状態にあるものと思われる(【定点報告疾病集計表・週報告分データ】)。



まずは感染症名を「インフルエンザ」(新型インフルエンザ+季節性インフルエンザ)に設定し、「5年間比」をクリックした上で「更新」をした結果が次のグラフ。

東京都における「インフルエンザ」の週単位報告数推移(2010年5週目も含めた過去5年間)
↑ 東京都における「インフルエンザ」の週単位報告数推移(2010年5週目までも含めた過去5年間)

数週間前から発表データが2010年のものに更新されているため、最新データは赤色に違いはないものの、一番左に移行している(赤い矢印でなぞった部分)。数字の動きとしては前回より大きく減少をしている。報告数そのものも少なめで、少し前まで「類似している」と指摘した2008年の事例よりも少ない。

例年の患者数推移傾向と比較して、「季節性インフルエンザ」の報告数が多少なりとも含まれている可能性も考えれば、直近においては「新型インフルエンザ」の増加の時期は過ぎ去り、現在は安定・漸減段階にあると断じてよい(※専門家による言及ではないことに注意)。もちろんゼロになったわけではなく、引き続き警戒を有する状況には違いない。また、すでに【東京都も新型インフルエンザに関する流行警報を解除しており】、これも「新型インフルエンザの流行」という事態の鎮静化を裏付ける一要因として見ることができる。

今データからだけでは判断できないが、例年のパターンと比較すると、すでに現在は季節性インフルエンザの流行真っ最中、というより終息に向けた時期のはず。しかしこの段階でもインフルエンザ報告例の多くは「新型インフルエンザによるもの」と思われる。実際に国立感染症研究所の【発表データ】で確認すると、いまだに検出されたインフルエンザウイルスのほぼすべてが新型インフルエンザのものであることが分かる。もちろん、例年のパターンと比べるとすでに「季節性」インフルエンザが広まる時期であり、新型が大部分とはいえ、新型と季節性の双方を合わせたものとして数字を見ていかねばならない。

一部報道によれば、専門家の間で「今年度は新型インフルエンザの流行で免疫学的・予防の面で季節型インフルエンザの流行が相当抑制される可能性がある」と指摘されている。上記の「国立感染症研究所」のデータもそれを裏付けるものであり、今後の検証のためにも興味深い傾向として注目していく必要がある。また、日本だけでなく海外でも同様の現象が起きていること、過去にもあったことが確認されている。

各週の報告数全体における若年層の割合は、学校生活という特殊な(そして感染がおこりやすい)閉鎖環境で過ごす時間が長いことから、20代までが多い。ただしその割合は最新データでは、季節性インフルエンザのそれに近いもの、実質的にほぼ同等の域となっている。これもまた後述するように「新型インフルエンザが今や他のインフルエンザ同様に『季節性インフルエンザ』の一つになった」可能性を検討するに値する材料といえよう。

東京都におけるインフルエンザの報告数(年齢階層別、該当週合計に占める割合、2009年1-6週と27-53週、2010年5週)
↑ 東京都におけるインフルエンザの報告数(年齢階層別、該当週合計に占める割合、2009年1-6週と27-53週、2010年5週まで)

東京都におけるインフルエンザの報告数(年齢階層別、2009年27-53週と2010年5週、積み上げグラフ)
東京都におけるインフルエンザの報告数(年齢階層別、2009年27-53週と2010年5週まで、積み上げグラフ)

最新の2010年5週では、9歳未満の患者数「割合」は前週と比べて横ばいの傾向(46.4%→46.4%)を見せている。昨年(まだ新型インフルエンザが流行していなかった時点)の同週と比較すると、年齢階層別では似たようなパターン(年明け以降は若年層が増え、高齢層が減る)をしめし、「新型がほとんどにも関わらず、年齢階層別の感染報告動向は季節性と同じ振る舞い」をしているイメージが強い。もっともこの層の割合が前年同週と比べてやや少なめの状態が維持されているため(10代後半-30代が多いのが要因)、もう少し流行は続きそうな感がある。

年齢階層別報告数の面でも、「新型が”季節性を食った””季節性に入れ替わった”可能性」は否定できない。今後の、特に今年の夏以降の動向の検証のためにも報告数の動きにはこれまで以上に注意を払う必要がある。もちろん冬場の寒さ・乾燥状態の進行(※ウイルスが広まりやすい)で(新型)インフルエンザの勢いが再び活性化する可能性は「ゼロとは言い切れない」点でも注意が必要。

もちろん以前から繰り返しお伝えしているように、感染拡大の場となりやすい教育機関ではうがいや手洗い、無用な人混みに足を運ぶことを避ける・マスクを欠かさない、十分な睡眠と栄養管理で身体の抵抗力を強固なものとしておく、体調不良時には「電話で連絡を入れて相談した上で」医療機関におもむくなど、季節性インフルエンザ同様の対応を「確実に行う」「繰り返し行う」ことの大切さを改めて強調しなければならない。これらの実行で、感染拡大は最小限に抑えられるだけでなく、季節性インフルエンザ対策としても十分な役割を果たす(今年は実際、その効果が表れているものと思われる)。

対策の重要性を理解しがたい子供達のために、学校で繰り返し啓蒙を行うことが欠かせまい。また、いわゆる「ハイリスク者」に対しての気遣い・備えも十分以上に行う必要がある。これから春を迎えるとはいえ、まだまだ天候・気温の差が激しい日々が続くため、体調不良に陥るリスクも高くなる。今まで同様にインフルエンザ対策、及び健康の管理が必要とされる。

さらに過去のパンデミックの事例(先のスペイン風邪など)を見る限り、世界的流行においては、初年度よりも翌年度、つまり去年よりも今年の方が状況が深刻化する可能性も否定できない。備えと観測は継続する必要があるといえよう。