文部科学省は2021年7月28日、2020年度版の【「学校保健統計調査」】の速報値を発表した。これは幼稚園から高校生にいたるまでの、各種身体的測定結果、病症の状況などを定期的に集計しているもので、子供の最新の育成状況や中長期的な健康状態の推移を推し量れるものである。今回は発表されたデータの中から、子供の視力関連について各種値を抽出し、現状と状況の移り変わりについて確認をしていくことにする。

視力1.0未満の子供はどれぐらいいるのか


「学校保健統計調査」内の視力関連データは現時点では1979年度以降2020年度分まで、幼稚園・小学校・中学校・高等学校の、視力1.0未満全体、0.7以上-1.0未満、0.3以上-0.7未満、0.3未満の人の、それぞれの学校生徒全体に占める比率が収録されている。また該当年分の詳細データをたどると、1歳単位の値も取得可能。

まずはこれを基に、視力1.0未満の割合の推移を折れ線グラフ化する。「裸眼」とは「眼鏡をかけない状態」を意味する。

↑ 裸眼視力1.0未満の人(学校種類別)(1979年度以降)
↑ 裸眼視力1.0未満の人(学校種類別)(1979年度以降)

中学校までは中期的に1.0未満の人が漸増する傾向にあるが、高等学校は1990年代前半でほぼ増加は頭打ち、しばらく横ばいを見せた後、2000年以降はむしろ減少傾向にあった。しかし2011年度以降は高等学校でも再び増加の動きを見せ、60%を再度超えてしまった。

似たような動きは中学校でも生じており、こちらは漸増状態に拍車をかけたようにも見える。中高学校ともにスマートフォンの普及とほぼ同じタイミングであるだけに、少々気になるところではある。

もっとも「スマートフォンの浸透と深い関係がありそうな中高学校」の値の上昇は、それこそ1980年代後半から(何度かの踊り場を経ながら)生じており、イレギュラーなものではない。むしろカラーテレビの世帯普及率がほぼ100%に達した時期と、各属性の値の増加開始タイミングが一致しており、「子供の視力低下とカラーテレビとの相関関係」の方が重要視すべき問題ともいえる(【1963年には9割近くに普及済...白黒テレビの普及率推移】)。

直近の2020年度では小学生の値が大きく上昇し、幼稚園、中学校も上昇の動きを示している。これについては「新型コロナウイルスの流行による在宅学習化で、スマートフォンを使う機会が増えたから」との解釈もある。しかし在宅学習という環境では通常の日常生活と比べて変化する要素があまりにも大きく、スマートフォンとの接触時間が増加したことのみを原因とするのは早急すぎる。第一、それでは前年度比で大きな減少を示した高等学校の動きが説明できない。

学校種類別により細かく視力1.0未満の内情を確認


続いて学校種類別に、1.0未満の中身を細分化(0.7以上-1.0未満、0.3以上-0.7未満、0.3未満)して積み上げグラフ化する。合計値が上のグラフと同意となる。

まずは幼稚園。

↑ 裸眼視力1.0未満の人(幼稚園)(1979年度以降)
↑ 裸眼視力1.0未満の人(幼稚園)(1979年度以降)

一般には視力が0.7を切ると眼鏡を用いた方がよいと言われている。グラフ上では赤系統色の部分が該当する。直近では6.78%が該当するが、このガイドラインに従えば、幼稚園児の約15人に1人は眼鏡をかけている計算になる。またこの30年では多少増えたかな…という雰囲気が見られる程度で、実質的にはほとんど変わりがない。

続いて小学校。

↑ 裸眼視力1.0未満の人(小学校)(1979年度以降)
↑ 裸眼視力1.0未満の人(小学校)(1979年度以降)

幼稚園と異なり、明らかに上昇傾向にある。特に視力0.7未満の割合(赤系統色)が増加しているのは一目瞭然。この40年強の間に0.7未満の割合は2倍以上の増加が確認できる。

中学校の動向はどうだろうか。

↑ 裸眼視力1.0未満の人(中学校)(1979年度以降)
↑ 裸眼視力1.0未満の人(中学校)(1979年度以降)

増加傾向は穏やかではあるものの、小学校同様に上昇していることに違いはない。また小学校と比べると、視力のより一層低い人の割合が多い(肌色<赤色)実態が把握できる。ちなみに直近2020年度では0.7未満の割合は44.76%。5人に2人以上は眼鏡が必要な状態。

最後に高等学校。これは特異な変化を見せている。

↑ 裸眼視力1.0未満の人(高等学校)(1979年度以降)
↑ 裸眼視力1.0未満の人(高等学校)(1979年度以降)

1.0未満の人のみの折れ線グラフでも触れたように、1990年代前半で頭打ちとなり、21世紀に入ってからは減少傾向にあった。また構成をみると、0.3未満の「特に視力の弱い人」が減少していたのが分かる。ところが2011年度以降は「0.3未満」の割合が大きく跳ね上がり、やや特異な形を見せている。この動きはこの数年で高校生の視力が急激に悪化する事象が生じていることを示唆している。

家庭用ゲーム機や携帯電話、特にスマートフォンの普及が連想されるが、その因果関係を証明するデータは、今件調査では確認できない。またそれらに伴い子供の外遊びの機会が減ったのも要因として考えられる。ちなみに直近2020年度では0.7未満の割合は49.64%。半数近くで眼鏡が必要な状態。前年度比で大きな減少を示したのが印象的で、上記でも言及しているが「新型コロナウイルス流行による在宅学習化でスマートフォンを利用する機会が増えたから子供の視力が悪化した」との仮説を否定する動きには違いない。



余談になるが今件項目における最古となる1979年度と、直近の2020年度の値を比較したのが次のグラフ。幼稚園は全般的に、小学生以降は視力の特に低い層の割合が増加していることが確認できる。

↑ 裸眼視力階層別比率(1979年度・2020年度)
↑ 裸眼視力階層別比率(1979年度・2020年度)

子供の視力低下の話になると、必ず「ゲーム機が」「携帯電話が」(昨今ではとりわけ「スマートフォンが」)と責任をその両者に限定する動きがある。データ取得が始まった1979年以降では、1980年後半から視力低下=視力の低い人の割合が増加し、「相関関係」にあることは分かる。この時期は家庭用ゲーム機の革命機とも言える、ファミリーコンピューターが登場し(1983年)、普及しはじめた時期でもある。また上記の通り、一般世帯にカラーテレビがほぼ浸透した時期とも重なる。

眼鏡しかしそれでは1990年-2000年前半における横ばい、さらには高校生の21世紀に入ってからの一時的な減少の説明ができない。上昇する部分はゲーム機や携帯電話のみの責任、横ばいや減少は無関係、では合理的な考えとはいえない(特に高校生において、携帯電話が普及しはじめた2000年後半以降に視力が下がっている部分は仮説「携帯電話が視力低下の一因」と逆行した結果が出ていることになる)。つまり「相関関係」(の一部)は確認できても「因果関係」を立証することは今件データでは不可能。同様に、高校生におけるこの数年間での視力低下と、スマートフォン普及との結びつきも、相関関係以上の説明はできない。

利用スタイルや普及率を考慮すれば、ゲーム機や携帯電話、特にスマートフォンが関係していることは疑う余地はない。しかしそれが原因のすべてではない。睡眠時間・就寝時間の変化、食生活の変化、雑誌や新聞などの普及率・購読率の変化、学習スタイルの変化、テレビの普及率・視聴率の変化、周辺環境の変化(外遊びの減少など遠目で物を見る機会の変化)など、実に多様な要因が想定され、視力の変化に及ぼす影響が考慮されねばならない。

にもかかわらず、「子供達の視力が低下しているのは、ゲーム機、スマートフォンのせい(だけ)だ」と断じるのは、あまり賢い論調とは評価できないのだが、いかがだろうか。


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