国土交通省港湾局独立行政法人港湾空港技術研究所は2011年4月1日、先の東日本大地震による津波で大きな被害を受けた岩手県釜石港における被災原因の検証のための、数値計算の結果を発表した。同港の津波防波堤の効力を試算したもので、防波堤の存在により津波高を4割・最大遡上高(さかのぼる域)を5割低減したという結果が出ている。さらに市街地区域の津波突破までの時間を6分間遅らせるなどの効力も確認された(【発表リリース】)。
今調査は、釜石港における津波浸水被害状況を検証するために行われたもので、GPS波浪計による津波観測結果、さらには現地調査で測定した津波痕跡の高さを参照にした上で、港湾空港技術研究所が開発した「高潮津波シミュレータ(STOC)」を用いて、津波の伝播と遡上を計算している。シミュレーターの再現性については、現地での調査結果に近しい値が出ており、再現性の面では問題無しと想定できる。
釜石港の津波防波堤は港の入口に位置し、開口部(延長300メートル)を挟み、南側に延長670メートルの防波堤(南堤)、北側に延長990メートルの防波堤(北堤)により構成されていた。今回の津波で大きな被害を受けたが、それは同時に被害を受けるほどのエネルギーを吸収し得たことをも意味する。
↑ 3月25日測量時の釜石港の津波防波堤の被災状況
シミュレーションの結果、この津波防波堤が無かった場合、釜石港須賀地区の大渡川沿いにおける津波の最大遡上高(津波がさかのぼる高度)は10.0メートルから20.2メートルへほぼ倍増する(いずれもシミュレーション上の結果。国交省釜石港湾事務所では7.7メートルと試算されているが、現地調査では8.1メートルの値が測定されているなど、シミュレーション上の精度に問題は無いことが分かる)。また浸水開始時刻についても防波堤がない場合はある場合に比べ、6分間早く到達するという結果が出ている。
↑ 最大遡上高・津波高の計算結果(上空から見た面)
現実は「津波防波堤あり」のものだが、仮に無かった場合、特に海中面での津波による勢いがそのまま陸上に向けられ、さらに大きな被害が生じ得ていたことが分かる。
↑ 釜石港における津波防波堤の効果(シミュレーション結果)
【防災とダメージコントロールの考え方について】でも触れているが、防災の基本的な考え方は「いかに損害を減らせるか」にあり、「損害をゼロにするか」では無い。「ゼロ」が最良であることは間違いないが、自然の力をすべてコントロールできるという考えは思い上がりも甚だしい。目標として「ゼロ」を掲げるのはともかく、それだけを求める、ゼロに出来なければ意味が無い・意味が無いから手をつける必要は無い・無駄でしかなかったのでは、とする考えは愚の骨頂に過ぎない。
今般東日本大地震でも津波の被害は甚大なものとなり、その被害を防げなかったのだから、津波防波堤の類は無意味だったする意見も少なからず見受けられる。しかし今件のリサーチにもあるように、現存している・していた「備え」はその力を存分に発揮していたことが分かる。「オール・オア・ナッシング」では無く、既存の対策における損害軽減度の増加(例えば今件なら津波防波堤の強化・広域化・多段化)、そして【津波避難で重要なのは「早く避難」「正しい判断」そして「事前の情報取得」】など一連の調査結果でも触れている、ソフト部門(避難・災害対策分野での啓蒙や、情報伝達システムの最適化、伝える際の情報文言に関する分析)の再確認と強化こそが、今後の施政に求められよう。
なお同研究所では【専用ページ】にて逐次詳細な調査報告や研究レポートを掲載している。関心のある人は目を通しておくことをお勧めしたい。
釜石港の津波防波堤は港の入口に位置し、開口部(延長300メートル)を挟み、南側に延長670メートルの防波堤(南堤)、北側に延長990メートルの防波堤(北堤)により構成されていた。今回の津波で大きな被害を受けたが、それは同時に被害を受けるほどのエネルギーを吸収し得たことをも意味する。
↑ 3月25日測量時の釜石港の津波防波堤の被災状況
シミュレーションの結果、この津波防波堤が無かった場合、釜石港須賀地区の大渡川沿いにおける津波の最大遡上高(津波がさかのぼる高度)は10.0メートルから20.2メートルへほぼ倍増する(いずれもシミュレーション上の結果。国交省釜石港湾事務所では7.7メートルと試算されているが、現地調査では8.1メートルの値が測定されているなど、シミュレーション上の精度に問題は無いことが分かる)。また浸水開始時刻についても防波堤がない場合はある場合に比べ、6分間早く到達するという結果が出ている。
↑ 最大遡上高・津波高の計算結果(上空から見た面)
現実は「津波防波堤あり」のものだが、仮に無かった場合、特に海中面での津波による勢いがそのまま陸上に向けられ、さらに大きな被害が生じ得ていたことが分かる。
↑ 釜石港における津波防波堤の効果(シミュレーション結果)
【防災とダメージコントロールの考え方について】でも触れているが、防災の基本的な考え方は「いかに損害を減らせるか」にあり、「損害をゼロにするか」では無い。「ゼロ」が最良であることは間違いないが、自然の力をすべてコントロールできるという考えは思い上がりも甚だしい。目標として「ゼロ」を掲げるのはともかく、それだけを求める、ゼロに出来なければ意味が無い・意味が無いから手をつける必要は無い・無駄でしかなかったのでは、とする考えは愚の骨頂に過ぎない。
今般東日本大地震でも津波の被害は甚大なものとなり、その被害を防げなかったのだから、津波防波堤の類は無意味だったする意見も少なからず見受けられる。しかし今件のリサーチにもあるように、現存している・していた「備え」はその力を存分に発揮していたことが分かる。「オール・オア・ナッシング」では無く、既存の対策における損害軽減度の増加(例えば今件なら津波防波堤の強化・広域化・多段化)、そして【津波避難で重要なのは「早く避難」「正しい判断」そして「事前の情報取得」】など一連の調査結果でも触れている、ソフト部門(避難・災害対策分野での啓蒙や、情報伝達システムの最適化、伝える際の情報文言に関する分析)の再確認と強化こそが、今後の施政に求められよう。
なお同研究所では【専用ページ】にて逐次詳細な調査報告や研究レポートを掲載している。関心のある人は目を通しておくことをお勧めしたい。
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