伝承サーベイリサーチセンターが2011年4月28日に発表した【東日本大地震に関する宮城県沿岸部における被災地アンケートの調査結果】には、東日本大地震に関連して地震防災、特に津波対策の点で非常に貴重なデータが多数盛り込まれている。今回はその中から、津波に関する伝承や学習とその有益性について焦点を当てることにする。



今調査は2011年4月15日から17日にかけて、宮城県沿岸部(8市町18避難所)(南三陸町、女川町、石巻市、多賀城市、仙台市若林区、名取市、亘理町、山元町)を対象に、避難所に避難中の20歳以上の男女に対し、質問紙を用いた調査員による個別面接調査法で行われたもので、有効回答数は451人分。

今般東日本大地震による津波災害は甚大なものとなったが、日本での津波災害は今件が初めてではない。過去に何度となく発生しており、学術研究などを基にしたさまざまな学習が行われ、伝承が語られている。例えば【恐らく各地で同じ話が・過去の津波で高台に移転した町、表浜地区】で紹介した「過去の津波の経験をもとに高台へ移った集落の話」や【「ここより下に家を建てるな」】の石碑の話、そして【「津波てんでんこ」】という言い伝え(他人に構わず必死で逃げろ)などが良い事例。

まず伝承についてだが、今件調査母体では聞いたことがある人は全体の3/4ほどに達していたものの、それが実際に役立った人は「聞いた人のうち約半数」「全体比では1/3程度」でしかなかった。

↑ 津波に関する伝承
↑ 津波に関する伝承

これを「聞いた人の半数も役に立った」と見るべきか「半数は役立たなかった」と見るべきかは個々の判断次第となるが、少なくとも知識として知っておくことでリスクが軽減されたことに違いは無く、その点ではプラスと見るべきである。

一方、伝承ではなく教育機関などを通じた「学習」の場合、触れた機会を持つ人自身が少なく、全体の46.3%しか学習経験者はいなかった。そしてその学習が役立ったか否かという点では伝承とあまり変わらず、役立った人は「学習を受けた人の半数程度」に留まっている。

↑ 津波に関する学習
↑ 津波に関する学習

受学者の半数もリスク軽減をさせたのだから成果は上がっていると見るべきだが、それにしても受講者の少なさが残念でならない。今後はこれまで以上に、科学的な観点、さらには伝承を織り交ぜた過去の歴史を学ぶ観点からの学習・啓蒙が「ソフト面での対策」として求められよう。



今件調査では市町村別、地域別の調査結果も提示されている。各区分の調査母数が少数となるためぶれが生じている可能性があり、あくまでも参考記録としてのものとなるが、気になる町や地域での伝承関連の値をグラフ化しておく。

↑ 津波に関する伝承(一部、地域・市町村別、各項目回答数少数のため参考記録)
↑ 津波に関する伝承(一部、地域・市町村別、各項目回答数少数のため参考記録)

リアス式海岸地域、特に昔から津波の被害を何度となく受けていた南三陸町では伝承を知っており、役に立ったという人の割合が高い。今件が「助かった人のみ」を対象としていたことを考えると、この数字はますます重要な意味を帯びてくる。一方で砂浜地域、港湾地域など、比較的開発期間が新しい場所では、伝承そのものを聞いたことが無い、聞いても役に立たなかったという意見が多い。伝承する人(高齢者や昔からその場に住んでいる地元の人)が少ないのか、あるいは伝承された内容が現在住んでいる場所にはマッチしていない可能性もある。

一方で「学習」においては、科学的な研究の内容だけでなく、過去の人々の経験の積み重ねで精錬された貴重な知識とも言える伝承との組み合わせが欠かせない。例えば[津波から児童生徒3000人全員を救った釜石の3つの秘訣]では、科学的な分析に基づいた基礎知識を学習させた上で、先の「津波てんでんこ」と同等の意味を持つ「率先避難者たれ」、言い換えれば「人のことは放って置いてもまず自分の命を全力で守ること」を教えている。これには「一人ひとりが自分自身のために全力で逃げる姿自身が、周囲への最大の警戒になる」という、非常に論理的な意味合いも持つ、理にかなった教えともいえる(【スタンピード現象を再確認してみる】で紹介した、スタンピード現象の有益な活用法と評することもできよう)。

ともあれ、【さかのぼる高度半減・6分の時間稼ぎ・高さは4割減…釜石港の津波防波堤の効力試算発表】でも記したように、災害対策はハード・ソフト両面での充実が求められる。伝承の伝達や学習はそのソフト面であり、繰り返しになるが、今後はさらなる充実が求められよう。



スポンサードリンク