2024-0118文部科学省は2023年11月28日付で、2022年度版となる【「学校保健統計調査」】の確定値を同省公式サイトで公開した。今調査は幼稚園から高校生までにおける、各種身体的測定結果、病症の状況などを定期的に集計しているもので、子供達の健康状態を多方面から推し量れる有意義な報告内容となっている。今回は最新の2022年度分だけでなく、取得できる過去のデータも併せ、子供達のむし歯(う歯)の状況の推移についてグラフを作成し、状況精査を行うことにした。
まずは単純に「現在むし歯がある子供」の比率。これは「未処置歯のある人」と呼んでいる。かつてむし歯があった子供、つまり治療形跡のある歯を持つ子供は含まれない。データは1948年度以降(幼稚園は1949年度以降、一部欠落あり)から用意されているが、終戦直後の1940年度代後半は40%内外で低めだったものが、1960年度代までには高水準に移行していくようすが分かる。

↑ むし歯(未処置歯)のある人の割合
↑ むし歯(未処置歯)のある人の割合

↑ むし歯(未処置歯)のある人の割合(2001年度以降)
↑ むし歯(未処置歯)のある人の割合(2001年度以降)

これはひとえに食料事情の改善によるもの。また、菓子類などの甘味が一般世帯に浸透していったのも一因。砂糖そのものに限っても、【農畜産業振興機構の統計資料(砂糖の需給関係資料)】のデータでも確認できる。もっともこの動きは1970年代までがピークで、それ以降は学校種類を問わずほぼ同等の傾斜ぶりで減少傾向を見せる。甘味摂取量がやや減ったことに加え(その分「調味嗜好飲料」、すなわちジュースやお茶、清涼飲料水などの摂取量は増加の一途をたどっているが)、予防・治療環境が整備されるようになったのが要因。

その整備状況が分かるのが、次のグラフ。こちらは上の「未処置歯のある者」に、「処置完了者」、つまりむし歯を治療した人を足した割合。むし歯経験者の動向を意味する。

↑ むし歯(未処置歯)のある人+処置完了の人の割合
↑ むし歯(未処置歯)のある人+処置完了の人の割合

↑ むし歯(未処置歯)のある人+処置完了の人の割合(2001年度以降)
↑ むし歯(未処置歯)のある人+処置完了の人の割合(2001年度以降)

1990年代中盤までは「現在むし歯が進行形(なので未処置)」「過去むし歯体験者」を合わせた率は高いままだが、それ以降は継続して減少していくのが分かる(幼稚園だけは別で、すでに1980年代から減少している)。最初のグラフと見比べると、

・1960年代まで……食料事情の改善、西洋化でむし歯環境も活性化

・1960年代-1970年代……高むし歯率時代

・1980年代-1990年代中盤……主にむし歯治療環境の整備浸透

・1990年代中盤以降……さらに食生活の変化や予防技術、啓蒙の浸透

との流れによる、子供におけるむし歯状況の変移がおぼろげながらも見えてくる。

最後は乳歯から永久歯に入れ替わりを見せはじめるタイミングとなる12歳における、永久歯の平均的なむし歯などの数(学校保健統計調査では12歳においてのみ本数が調査されている)。乳歯のむし歯は時期にもよるものの、歯ごと抜いてしまう最終手段を比較的容易に選択できるが(どのみち永久歯への抜け替わりがある)、永久歯は抜いてしまうと再度生えてくることはないので、早期発見・早期治療が求められる。可能ならば乳歯時代にむし歯を完治して再発を防ぎ、永久歯はむし歯そのものを起こさないようにするのが望ましい。

↑ 12歳の永久歯の一人あたり平均むし歯(う歯)などの数(処置歯と未処置歯、喪失歯の合計数)
↑ 12歳の永久歯の一人あたり平均むし歯(う歯)などの数(処置歯と未処置歯、喪失歯の合計数)

今件項目の計測が始まったのは1984年度からで、それ以前の動向がつかめないのは残念だが、むし歯保有者率同様減少を続けているのが分かる。調査開始の1984年度では4.75本だった平均値も直近の2022年度では0.56本まで減っている。これは2022年度では12歳の人における「永久歯」のむし歯(治療済み、治療中、そして何らかの理由で抜いてしまった歯)が1本足らずでしかなく、1984年度からの30年あまりで4本強減ったことを意味する。それだけ永久歯においても、むし歯が少なくなっている次第である。



むし歯は予防し得るのならそれに越したことはないが、もしむし歯が確認できても早期治療を果たせば、色々な意味での「痛み」は小さいレベルで済む。子供へ「正しい」歯磨きの習慣をつけさせるのはもちろん、歯の違和感などを覚えたら、すぐに親に教えて治療に当たらせることも言い聞かせるようにしよう。むし歯は基本的に、放っておけば治るようなものではない。

痛みを半ば無視して「無かったこと」と思い込んでいたら相当深度にまでむし歯が進行し、治療の際に余計痛い目に長期間合う羽目になった経験者の弁であり、間違いはない。


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