先に【乳児・新生児の死亡率推移(1899年以降版)】において、人口動態調査の記録を基に、1世紀強にわたる乳児・新生児の死亡率変移をグラフ化し、医療技術や生活環境の進歩を一側面から精査した。その際取得したデータには他にもいくつか、長期間にわたる変移を確認できる内容が収録されている。今回はその中から出生率と死亡率の推移にスポットライトを当て、状況を確認していくことにする。
データの取得元やそれに関する時代背景などは、先の「乳児・新生児の死亡率推移」と同じ。人口動態調査の各公開値を用いることになる。そして言葉の定義だが、「出生数」「死亡数」はそれぞれその年に生まれた・亡くなった人の数を表す。死因・年齢は特定しない(。先の記事で取り上げた新生児・乳児なども含まれる)。また比率は「%」表記がなければ、基本的に人口1000人比となる。
1組目のグラフは死亡数・死亡率の推移。これを1899年以降継続して直近分となる2022年分まで、そして戦後に限って再構築したもの、計2つを作成した。
↑ 死亡数・死亡率
↑ 死亡数・死亡率(戦後限定)
1918年からしばらくの間流行したスペイン風邪が、体力に劣る新生児・乳児の命を多数奪った事は「乳児・新生児の死亡率の推移をグラフ化してみる」で言及した通り。さらにそれだけでなく、乳児より年上の幼児・子供、そして大人にも大きな刃(やいば)を振るっている。グラフ上でもこの時期に大きく値が跳ねたことが確認できる。
また新生児・乳児ほどではないものの、全体としても死亡率・死亡数は20世紀初頭まで高止まり。そしてその後は確実にリスク軽減を果たし、1960-1970年の高度成長期を経て、一定水準の低さにまで到達。乳児・新生児と異なるのはここからで、1980年代以降はむしろ率・数ともにゆるやかな上昇傾向にある。
これは技術が退化した、あるいは環境が悪化したのではなく、【全国勢調査「100年分」の子供・成人・老人比率推移(2017年)(最新)】などで解説している通り、全人口に占める高齢者比率が増加しているのが原因。高齢者の方が亡くなるリスクは大きいため、高齢層の比率が高まれば、当然全体の死亡率も上昇していく。
なお直近年となる2022年においては、死亡者数は156万9050人、対人口1000人比の死亡率は12.9となる。
一方、出生数・出生率はある程度の上下変動を経ながら、全般的には減少傾向にある。
↑ 出生数・出生率
↑ 出生数・出生率(戦後限定)
戦前は概して高い出生率を見せていたが、新生児・乳児の死亡率も高く、また上記にあるように大人の死亡率も高かった。戦後に入ると出生数・率は急激な減少カーブを示すが、いわゆる「ベビーブーム期」にはやや上昇、そしてその過程で「ひのえうま」(丙午に生まれた女性は男性以上に強い性質を持つとの迷信から、子供が忌み嫌われるのを恐れ、親が出産をためらう動きがあった)によるイレギュラー的な減少も確認できる。
出生率の低下については諸般事情、説があるが、一般的にはいわゆる「先進国病」が大きな要因とされている。倫理観の成熟と社会制度の整備により、子供一人あたりの養育コストが積み増しされることで、世帯が養え得る子供の数が減り、それに伴い出産数も抑えられるとするものである。さらに結婚や世帯構成に対する価値観の変化も、小さからぬ原因とされている。そして死亡率、特に新生児・乳児の死亡率の低下もまた、出生率の低下の一因には違いない。
なお直近年となる2022年においては、出生数は77万759人、対人口1000人比の出生率は6.3となる。
死亡率の緩慢な増加は、年齢階層別構成比の変化を考慮すれば、社会現象として是認せざるを得ない。一方、平均寿命が延びていることからも分かる通り、死亡リスクそのものは確実に減少を続けている。
今件データは先の新生児・乳児の死亡率や、年齢階層別構成比の変移、さらには婚姻率などと見合わせると、新たな発見を見出せ、日本の人口推移の大まかな把握に役立つに違いない。日本の近世の動向を知る上でも、確認しておくことをお勧めする。
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スペイン風邪の猛威と昨今の高齢化が分かる「死亡数・死亡率」
データの取得元やそれに関する時代背景などは、先の「乳児・新生児の死亡率推移」と同じ。人口動態調査の各公開値を用いることになる。そして言葉の定義だが、「出生数」「死亡数」はそれぞれその年に生まれた・亡くなった人の数を表す。死因・年齢は特定しない(。先の記事で取り上げた新生児・乳児なども含まれる)。また比率は「%」表記がなければ、基本的に人口1000人比となる。
1組目のグラフは死亡数・死亡率の推移。これを1899年以降継続して直近分となる2022年分まで、そして戦後に限って再構築したもの、計2つを作成した。
↑ 死亡数・死亡率
↑ 死亡数・死亡率(戦後限定)
1918年からしばらくの間流行したスペイン風邪が、体力に劣る新生児・乳児の命を多数奪った事は「乳児・新生児の死亡率の推移をグラフ化してみる」で言及した通り。さらにそれだけでなく、乳児より年上の幼児・子供、そして大人にも大きな刃(やいば)を振るっている。グラフ上でもこの時期に大きく値が跳ねたことが確認できる。
また新生児・乳児ほどではないものの、全体としても死亡率・死亡数は20世紀初頭まで高止まり。そしてその後は確実にリスク軽減を果たし、1960-1970年の高度成長期を経て、一定水準の低さにまで到達。乳児・新生児と異なるのはここからで、1980年代以降はむしろ率・数ともにゆるやかな上昇傾向にある。
これは技術が退化した、あるいは環境が悪化したのではなく、【全国勢調査「100年分」の子供・成人・老人比率推移(2017年)(最新)】などで解説している通り、全人口に占める高齢者比率が増加しているのが原因。高齢者の方が亡くなるリスクは大きいため、高齢層の比率が高まれば、当然全体の死亡率も上昇していく。
なお直近年となる2022年においては、死亡者数は156万9050人、対人口1000人比の死亡率は12.9となる。
低減する出生率
一方、出生数・出生率はある程度の上下変動を経ながら、全般的には減少傾向にある。
↑ 出生数・出生率
↑ 出生数・出生率(戦後限定)
戦前は概して高い出生率を見せていたが、新生児・乳児の死亡率も高く、また上記にあるように大人の死亡率も高かった。戦後に入ると出生数・率は急激な減少カーブを示すが、いわゆる「ベビーブーム期」にはやや上昇、そしてその過程で「ひのえうま」(丙午に生まれた女性は男性以上に強い性質を持つとの迷信から、子供が忌み嫌われるのを恐れ、親が出産をためらう動きがあった)によるイレギュラー的な減少も確認できる。
出生率の低下については諸般事情、説があるが、一般的にはいわゆる「先進国病」が大きな要因とされている。倫理観の成熟と社会制度の整備により、子供一人あたりの養育コストが積み増しされることで、世帯が養え得る子供の数が減り、それに伴い出産数も抑えられるとするものである。さらに結婚や世帯構成に対する価値観の変化も、小さからぬ原因とされている。そして死亡率、特に新生児・乳児の死亡率の低下もまた、出生率の低下の一因には違いない。
なお直近年となる2022年においては、出生数は77万759人、対人口1000人比の出生率は6.3となる。
死亡率の緩慢な増加は、年齢階層別構成比の変化を考慮すれば、社会現象として是認せざるを得ない。一方、平均寿命が延びていることからも分かる通り、死亡リスクそのものは確実に減少を続けている。
今件データは先の新生児・乳児の死亡率や、年齢階層別構成比の変移、さらには婚姻率などと見合わせると、新たな発見を見出せ、日本の人口推移の大まかな把握に役立つに違いない。日本の近世の動向を知る上でも、確認しておくことをお勧めする。
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