厚生労働省は2024年7月26日、2023年分の簡易生命表の概況を発表した。それによると2023年における日本の平均寿命は、男性が81.09年、女性が87.14年となった。男性の平均寿命80年超えは2013年分が初めてで今2022年が連続の11年目となる。今回は各発表データを基に、経年の寿命推移について、各種グラフに最新値を反映・更新させ、状況の再確認を行う(【令和5年簡易生命表の概況】)。
今回発表された「生命表」とは、ある期間において死亡状況・環境が今後変化しないと仮定した時に、「各年齢の者が1年以内に死亡する確率」や「平均して今後何年生きられるか」といった期待値などを、死亡率や平均余命などの指標(生命関数)によって表したもの。世間一般に言われている「平均寿命」とは、その年に生まれた人が(社会情勢などの変化がない限り)何年生きられるかを示したものである。
また、今回発表された「簡易生命表」と、時折耳にする「完全生命表」の違いだが、次の通りとなる。
精度の上では「簡易生命表」は概算値、「完全生命表」は確定値・決定版との位置づけである。経年変化のものについては「簡易生命表」のが基本値として採用されているが、5年おきの分をはじめ「完全生命表」が発表された年のものは、その値への差し替えが行われている。今回は2023年分について「簡易生命表」が発表されたため、その値を反映している。
次に掲載するのは、それらの値を基に構築した、平均寿命の推移。1つ目は各種公的データを集約して作成した1891年以降のもの、2つ目は戦後に限定して1947年以降のもの、3つ目は直近で1990年以降のものである。なお戦前は調査そのものが非定期(完全生命表のみ作成された)、戦中は行われていなかったこともあり、グラフ上で直線となってしまう部分がいくつか生じている。
↑ 平均寿命(日本、戦前は完全生命表のみ・不連続、年)
↑ 平均寿命(日本、年)(1947年以降)
↑ 平均寿命(日本、年)(1990年以降)
まずは戦前からの網羅版。分かりやすいように、節目となる動きの部分に説明の吹き出しを加えている。一番古いデータの1891-1898年では男性42.80年・女性44.30年。織田信長によるものが有名な、敦盛の一節「人間五十年」よりも短い。
以後、少しずつ近代化とともに上昇を見せるが、1921-1925年には大幅に減少してしまう。これは【乳児・新生児の死亡率推移(1899年以降版)(最新)】でも解説した通り、1918年から世界的に大流行したスペイン風邪、そして1923年に発生した関東大震災の影響を受けてのもの。以後、各方面の努力もあったが、戦前は緑の薄い破線で記した「50年ライン」を超すことはかなわなかった。そして戦後初となる1947年調査で、初めて男女とも平均寿命が50年を超えている。
戦後に限った、さらには1990年以降限定のグラフに目を移す。戦後しばらくにおいては社会情勢・健康・食料事情の安定化、さらには「戦死」要素が事実上なくなったこともあり、大きな上昇傾向が見られる。しかし 1950年代後半からは上昇傾向が緩やかになり、その流れのまま上昇しているのが分かる。1970年代まではイレギュラー的にやや大きな上昇の年もあったが、それ以降はほとんど変わりないペースが続いている。
なお2011年ではやや大きな下落変動が確認できる。詳しくは別の機会で解説するが、これは2011年3月11日に発生した東日本大震災に伴うものである。上記に挙げた戦前の関東大震災、戦後では1995年に発生した阪神淡路大震災でも似たような動きが確認できるが、大規模な自然災害は国全体の平均寿命にすら、明らかな影響を及ぼす事例といえる。なお2010年にも多少の下落があるが、これは誤差の範囲に加え、猛暑による熱中症を起因としたところによるものが大きい。2021年から2022年でも下落が起きているが、これは新型コロナウイルスの流行によるところが大きい。
今後の動向だが、単に数字上での傾向を見る限りでは「年+0.数%の増加」「5年前後おきに-0.数%の減少」といった流れが続いている。社会的情勢に変化がなければ、男性の平均寿命85年超、女性90年超もそう遠い未来の話ではない。
上記でも軽く触れているが、多分に誤解釈が浸透しているようなので、「平均寿命」の定義について、改めて解説を加えておく。
「平均寿命」とは「各年における0歳児の平均余命」を指す。例えば2023年の女性の平均寿命は87.14年なので、「2023年に生まれた女性は、社会情勢などの大きな変化がない限り、平均的に87.14年生きられる」ことを意味する。「2023年時点で亡くなった女性の平均年齢が87.14歳」ではない。また「2023年時点で87歳の女性は、普通ならばこの1年間に亡くなってしまうだろう」との意味でもない。
サンプルとして2023年時点の、高齢者における平均余命(2023年時点でその歳において、平均的にあと何年生きられるか)をグラフ化しておく。
↑ 平均余命(高齢層(一部)、年)(2023年)
↑ 平均余命(高齢層、年)(2023年)
2023年の時点で80歳の女性は、今後さらに平均で12年近く生き続ける試算ができる。くれぐれもお間違えなきように。
■関連記事:
【江戸時代の平均寿命とエネルギー消費量】
【中堅・シニア層にズバリ聞く「あなたは何歳まで生きたいか」】
【平均健康寿命の国際比較(最新)】
【「1945年の日本の平均寿命は男性23.5歳、女性32.0歳」という話】
戦後は逐次伸びる平均寿命だったが
今回発表された「生命表」とは、ある期間において死亡状況・環境が今後変化しないと仮定した時に、「各年齢の者が1年以内に死亡する確率」や「平均して今後何年生きられるか」といった期待値などを、死亡率や平均余命などの指標(生命関数)によって表したもの。世間一般に言われている「平均寿命」とは、その年に生まれた人が(社会情勢などの変化がない限り)何年生きられるかを示したものである。
また、今回発表された「簡易生命表」と、時折耳にする「完全生命表」の違いだが、次の通りとなる。
・簡易生命表
毎年作成、公開される。該当年の10月1日の推計人口や、人口動態統計の月報による概数値で算出されるもの。
・完全生命表
5年毎に作成される。国勢調査(5年おき)の結果や、人口動態統計の確定値で算出される。
毎年作成、公開される。該当年の10月1日の推計人口や、人口動態統計の月報による概数値で算出されるもの。
・完全生命表
5年毎に作成される。国勢調査(5年おき)の結果や、人口動態統計の確定値で算出される。
精度の上では「簡易生命表」は概算値、「完全生命表」は確定値・決定版との位置づけである。経年変化のものについては「簡易生命表」のが基本値として採用されているが、5年おきの分をはじめ「完全生命表」が発表された年のものは、その値への差し替えが行われている。今回は2023年分について「簡易生命表」が発表されたため、その値を反映している。
次に掲載するのは、それらの値を基に構築した、平均寿命の推移。1つ目は各種公的データを集約して作成した1891年以降のもの、2つ目は戦後に限定して1947年以降のもの、3つ目は直近で1990年以降のものである。なお戦前は調査そのものが非定期(完全生命表のみ作成された)、戦中は行われていなかったこともあり、グラフ上で直線となってしまう部分がいくつか生じている。
↑ 平均寿命(日本、戦前は完全生命表のみ・不連続、年)
↑ 平均寿命(日本、年)(1947年以降)
↑ 平均寿命(日本、年)(1990年以降)
まずは戦前からの網羅版。分かりやすいように、節目となる動きの部分に説明の吹き出しを加えている。一番古いデータの1891-1898年では男性42.80年・女性44.30年。織田信長によるものが有名な、敦盛の一節「人間五十年」よりも短い。
以後、少しずつ近代化とともに上昇を見せるが、1921-1925年には大幅に減少してしまう。これは【乳児・新生児の死亡率推移(1899年以降版)(最新)】でも解説した通り、1918年から世界的に大流行したスペイン風邪、そして1923年に発生した関東大震災の影響を受けてのもの。以後、各方面の努力もあったが、戦前は緑の薄い破線で記した「50年ライン」を超すことはかなわなかった。そして戦後初となる1947年調査で、初めて男女とも平均寿命が50年を超えている。
戦後に限った、さらには1990年以降限定のグラフに目を移す。戦後しばらくにおいては社会情勢・健康・食料事情の安定化、さらには「戦死」要素が事実上なくなったこともあり、大きな上昇傾向が見られる。しかし 1950年代後半からは上昇傾向が緩やかになり、その流れのまま上昇しているのが分かる。1970年代まではイレギュラー的にやや大きな上昇の年もあったが、それ以降はほとんど変わりないペースが続いている。
なお2011年ではやや大きな下落変動が確認できる。詳しくは別の機会で解説するが、これは2011年3月11日に発生した東日本大震災に伴うものである。上記に挙げた戦前の関東大震災、戦後では1995年に発生した阪神淡路大震災でも似たような動きが確認できるが、大規模な自然災害は国全体の平均寿命にすら、明らかな影響を及ぼす事例といえる。なお2010年にも多少の下落があるが、これは誤差の範囲に加え、猛暑による熱中症を起因としたところによるものが大きい。2021年から2022年でも下落が起きているが、これは新型コロナウイルスの流行によるところが大きい。
今後の動向だが、単に数字上での傾向を見る限りでは「年+0.数%の増加」「5年前後おきに-0.数%の減少」といった流れが続いている。社会的情勢に変化がなければ、男性の平均寿命85年超、女性90年超もそう遠い未来の話ではない。
「平均寿命」の誤解と「平均余命」
上記でも軽く触れているが、多分に誤解釈が浸透しているようなので、「平均寿命」の定義について、改めて解説を加えておく。
「平均寿命」とは「各年における0歳児の平均余命」を指す。例えば2023年の女性の平均寿命は87.14年なので、「2023年に生まれた女性は、社会情勢などの大きな変化がない限り、平均的に87.14年生きられる」ことを意味する。「2023年時点で亡くなった女性の平均年齢が87.14歳」ではない。また「2023年時点で87歳の女性は、普通ならばこの1年間に亡くなってしまうだろう」との意味でもない。
サンプルとして2023年時点の、高齢者における平均余命(2023年時点でその歳において、平均的にあと何年生きられるか)をグラフ化しておく。
↑ 平均余命(高齢層(一部)、年)(2023年)
↑ 平均余命(高齢層、年)(2023年)
2023年の時点で80歳の女性は、今後さらに平均で12年近く生き続ける試算ができる。くれぐれもお間違えなきように。
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