2024-0131総務省消防庁は2024年1月26日、2023年版「救急・救助の現況」を発表した。それによると119番通報を受けてから対象患者を病院に搬送するまでの全国平均時間は、2022年においては47.2分であったことが明らかになった。これは2021年の42.8分と比べて4.4分延びた形となる。また通報を受けてから現場に到着する時間は10.3分となり、2021年の9.4分と比べて0.9分の延びとなる。救急搬送時間の長さが問題視される昨今だが、高齢化の進行や軽症あるいは不必要な状況での緊急出動要請の増加による、救急体制のオーバーフロー的な状況や、病院数そのものの不足など、さらに新型コロナウイルスの流行で搬送先の病院がすぐには見つからない状況にあることが原因と推測される。

増加する需要に伴い遅延化する救急搬送体制


「救急・救助の現況」は現在【救急・救助の現況(消防庁)】にて閲覧が可能。まずここから、2024年1月26日に発表された「2023年版(2022年分が最新値)」のものを含む、さかのぼれる1998年中以降における「救急自動車による現場到着平均時間と病院収容平均時間」をグラフ化する。

↑ 救急自動車による現場到着平均時間と病院収容平均時間
↑ 救急自動車による現場到着平均時間と病院収容平均時間

「現場到着時間」とは通報を受けてから現場に着くまで、「病院収容平均時間」とは通報を受けてから現場に到着し、対象患者を救急車に収容して病院に収容するまでの時間を意味する。いずれの時間も年々おおよそ延びているのが分かる。直近2022年では前年の2021年から継続する形で、2013年以降のほぼ横ばいの動きから変わり、大きく延びることとなった。発表資料には具体的な言及はないものの、新型コロナウイルスの流行で救急リソースが不足し、対応が遅れてしまったのが大きな原因だと考えられる。

「病院収容時間」には「現場到着時間」も含まれるため、今グラフでは違いが今一つ分かりにくい。そこで「現場到着時間」と、「現場到着後の病院収容までの平均時間」を当方で逆算して積み上げグラフにしたのが次の図。各年の赤と青によって構成された棒全体の長さが「病院収容時間」となる。

↑ 救急自動車による現場到着平均時間と現場到着後病院収容までの平均時間
↑ 救急自動車による現場到着平均時間と現場到着後病院収容までの平均時間

現場に到着するまでの時間も、そしてその後病院に収容されるまでの時間双方とも少しずつ延びている。そして直近の2022年では、その前年と比べて双方とも大きく延びてしまっているのが分かる。ちなみに「現場到着後病院収容までの時間」は「現場到着時間平均」の何倍かを算出したが、大きな変化は無い。

↑ 「現場到着後病院収容までの時間平均」は「現場到着時間平均」の何倍か
↑ 「現場到着後病院収容までの時間平均」は「現場到着時間平均」の何倍か

「現場に到着するまで」「現場に到着してから」のどちらか一方だけに、収容されるまでの時間が延びている原因があるわけではない実態が確認できる。

進む高齢化、不必要案件の呼び出し、そしてオーバーフロー


「病院収容時間」などの時間が延びている原因はいくつか推測でき、「救急・救助の現況」を基に毎年消防庁が分析の上で提供している消防白書でも、問題点として指摘している。そのうちの大きなものが「軽症患者、あるいは救急搬送が不必要な事例による出動が増え、救急活動がオーバーフロー気味となっている」と「高齢者の呼び出しによる出動回数の増加」。その実情を過去のデータも含めて確認する。

まずは傷病程度別運搬人員の状況。もっとも古い1998年から直近の2022年までの値を用いて算出して比較したもの。軽症者比率はほぼ横ばいで、中等症者(3週間未満の入院が必要な傷病の者)比率が増加、重症者以上が減少している。もっとも2020年と2021年は中等症者以上の比率が大きく増加しているが、これは軽症と自己判断した傷病者が病院を(新型コロナウイルスの感染リスクが高くなると考えて)忌避し、救急車を呼ばないケースが多々あったからだと思われる。その分、2022年では軽症者比率が大きく増加し、中等症以上の比率で減少が見られる。

↑ 救急自動車による搬送人員数(傷病程度別、比率)
↑ 救急自動車による搬送人員数(傷病程度別、比率)

ただしこれは全搬送者数に対する比率。1998年当時は約354万人だった搬送者も10年後の2008年には約468万人、そして直近の2022年では約622万人にまで増加している。その上で比率に変化があまり無いことから、軽症の搬送者数は増加していることが分かる。もっとも2020年から2021年においては、新型コロナウイルスの流行による病院忌避傾向が影響しているものと思われる、軽症の搬送者数の大きな減少が生じていた。直近の2022年では軽症の搬送者数は大きく増加している。

↑ 救急自動車による搬送人員数(傷病程度別、人)
↑ 救急自動車による搬送人員数(傷病程度別、人)

ケガにしても病気にしても本人自身ではその重度が判断しにくい。「軽症に思えるのなら救急車は呼ぶな」との意見に正当性は無い。しかし同時に、数字の上ではこのようなデータが出ている事実を認識しておく必要はある。

もう一つは年齢階層別区分。消防庁でも年齢階層別構成に係わる問題については近年注視しており、2008年以降からデータを用意している。

↑ 救急自動車による搬送人員数(年齢階層別、比率)
↑ 救急自動車による搬送人員数(年齢階層別、比率)

今回の記事で都合15年分の値が蓄積されたことになるが、明らかに高齢者の比率が上昇しているのが確認できる。また確定値が出ている直近の国勢調査(2020年実施)の人口比も併記したが、高齢者の搬送比率が人口比よりはるかに多いのも一目瞭然。

病状の悪化やケガの発生比率を考えれば、高齢者搬送比率が人口比率より高いのは当然の話。しかし一方で、【高齢者人口3623万人、総人口比は29.1%で過去最高(2023年・敬老の日)】などにもあるように、人口比率の変移と比べても非常に高い上昇率を示しているのが気になるところだ。あるいは「高齢者」(65歳以上)区分の中でもよりリスクの高い年齢層の比率・絶対数の増加によって、必然的に搬送人員数が増えていると見た方が妥当かもしれない。

ちなみに直近年における、高齢者に区分される年齢階層をさらに細分化した搬送人員状況は次の通り。

↑ 救急自動車による搬送人員数(65歳以上の内訳、年齢階層別)(2022年)
↑ 救急自動車による搬送人員数(65歳以上の内訳、年齢階層別)(2022年)

年を取れば取るほど傷病リスクは高まるのだから当然ではあるが、単純な人口比では65-74歳の比率が一番高いが、搬送人員数比率では85歳以上がもっとも高い。ちなみに単純試算だが2022年においては、85歳以上の25.1%は救急自動車で搬送されたことになる(65-74歳は5.4%、75-84歳は11.7%)。無論、1年間で複数回搬送された事例もありうることから、実際にはもう少し低い比率になるのだろうが。

今回の「救急・救助の現況」に先立つ形で、三重県松阪市における救急車の搬送有料化(一部の病院に搬送され入院に至らなかった場合、「選定療養費」として7700円。紹介状持参や公費負担医療制度の対象者は対象外)が決定され、話題となった。救急自動車による搬送の実情を見れば、その問題への理解もより深まるに違いない。


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