
がん検診受診率は4割台。若年層ほど低い傾向
今調査の調査要項は先行記事【がんが怖い人9割強、理由は「死に至る場合があるから」(最新)】を参考のこと。その記事にもある通り、がんも他の病気同様、病症を確認して治療をはじめる時期が遅いと、治療そのものが間に合わない場合が少なくない。そして「早期発見・早期治療」が大切なのも、他の疾病と同じ。ところが日本におけるがん検診の受診率はお世辞にも高くない。検査対象のがんの種類にもよるが(一度の検査で主要部位すべてのがんへの確認ができるわけではない)、厚生労働省の「国民生活基礎調査の概況」の2022年度版によれば、もっとも受診率が高い肺がん検診ですら、男性で53.2%・女性で46.4%にとどまっている
今調査ではがんの対象を特定せず、単にがん検診に関して受診をしたか否かを尋ねている(一応具体例として「胃の内視鏡検査やマンモグラフィ撮影などによるがん検診」と表現しているが、具体的設問では「がん検診を受けたことがあるか」と表現されている)。その結果としては、4割台が2年以内に受診したと回答した。最後に受診したのが2年前より前の人が2割強、そしてまだ一度も受診していない人も1/3強に達している。

↑ がん検診受診状況(属性別)(2023年7月)
女性特有の検診となる「子宮がん」「乳がん」の検診は基本的に2年おきに実施するものだが、それ以外の部位では毎年行うのが望ましいため、男女ともに「1年以内に受診」の回答が本来ならばあるべき回答。しかしながら該当者は5割にすら満たない。男女別では女性の方が検診状況は進んでいる。「子宮がん」「乳がん」の点で男性以上にがんに対する認識が強くなければならない女性の方が高くなるべきで、この点では納得のいく値ではある。
18-29歳の年齢層では「無し」の回答が極めて多いが、これは学生なども含まれており、仕方がない面もある。しかし就業者ならば法定健診に含まれる場合もあり、そうでなくとも自治体などによって安価にて検診の機会は提供されることから、当事者の検診意識が低いと見ることもできる。また国によるがん検診の指針が子宮頸がんは20歳以上だが、肺がん・乳がん・大腸がんは40歳以上、胃がんは50歳以上となっているのも一因だろう(【厚生労働省・がん検診】)。もっとも後述する理由からは「時間がない」との回答が多数を占めており、時間を確保する工夫を仕組みとして提供することが、若年層の検診率向上につながるものと考えられる。
40-60代は検診状況にあまり変わりはない。がんを自らにも生じるかもしれないものとして真剣に認識するからだろう。また国の指針によるところも大きい。しかし見方を変えれば40代でも3割強、50代以降でも2割台は過去に一度もがん検診をしていない人が存在することになる。恐らくは以前に受けてそれきりの人も40代で1割台後半、50代以降でも2割台が確認できる。
なぜ検診を受けないのか
それではなぜがん検診をしないのか。検診状況で「2年超前に受診」「無し」の回答者にその理由を尋ねたところ、もっとも多くの人が同意を示したのは「心配な時にはいつでも医療機関を受診できるから」だった。23.9%が「心配な時にはいつでも医療機関を受診できる(ので、今は心配ないから)」検診をしないと回答している。

↑ がん検診を受けない理由の認識(複数回答)(2023年7月)
トップの「心配な時にはいつでも医療機関を受診できるから」は、第4位の「健康状態に自信があり必要性を感じないから」とほぼ同じ意味と考えられる。今項目は受診していない人に答えてもらっており、つまりは「今は心配していない、つまり自分はがん罹患の可能性はないと考えている)から受診していない」となるからである。がんを罹患するのは何らかの形で体にトラブルが生じた結果であるとの認識なのか、あるいは健康体、若いうちには発症することはないとの考えによるものだろう。実際には自覚症状としては健康体そのものでも、がんを発症している可能性はゼロとは言えないので、思い過ごしでしかないのだが。
第2位は「費用がかかり経済的にも負担になるから」で23.2%。多数の部位をくまなく検診すると数千円の負担が生じ、検査場所までの交通費も合わせると少額とは言い難い。しかしこれは各種医療制度(例えば年一回の公的な医療検査)を活用することで、最低限の金額に留めることができる。
第3位は「受ける時間がないから」。がん検診は対象となるがんの部位毎に受けねばならない。また、医療機関によっては一度に複数部位の検診はできず、複数部位の検査をしたい場合には時間・場所を変えて行う必要がある。たとえ検診の時間そのものが待機時間も含め数時間で済むとしても、平日仕事をしている人には各部位の検診毎に半日・一日の休みの確保が求められる。当然「受ける時間がない」と回答する人が多いのも納得できる。
「がんであると分かるのが怖いから」は16.2%。多分に因果関係の誤認によるもので、「検診したからがんを罹患する」のではなく「元々発症していた人が検査で確認できる」に過ぎない。放っておけば勝手に治癒する事例はないに等しく、いわば虫歯と同じようなもの。単なる怖さからの逃げは、現実逃避でしかない。
男女、年齢階層別に見ると
これを男女別に見たのが次のグラフ。

↑ がん検診を受けない理由の認識(複数回答、男女別)(2023年7月)
同調査では「がんについて怖い印象を持っているか否か」も調査項目として挙げているが、男性より女性の方が「がんについて怖いとの印象を持っている」人は多く、恐れる理由も多様。しかしながら、例えば「心配な時はいつでも医療機関を受診できるから」「がんであると分かるのが怖いから」のような、間違った知識・解釈による理由でがん検診を受けていない人は女性の方が多い。残念な話であり、がんに関する知識に対しての啓蒙不足が推定される。
他方、時間や金銭のような具体的な余裕のなさ、自分の健康への過度の自信から来る検診忌避は男性の方が高い値が出ている。時間や金銭に関しては、行政側の対応の改善が求められよう。
年齢階層別に見ると、それぞれの事情がおぼろげながらも浮かび上がってくる。

↑ がん検診を受けない理由の認識(複数回答、年齢階層別)(2023年7月)
「受ける時間がない」は中年層が高い値。高齢者には時間の余裕があり、検診も苦にならない。「費用がかかり経済的にも負担になるから」もほぼ同じ動き。「健康状態に自信があり必要性を感じないから」は高齢層で高い。健康に不安が多いはずの高齢層で高いのは自信過多なのか、あるいはこれまでがんを罹患したことがない人による経験則からの過信なのか。「心配な時にはいつでも医療機関を受診できるから」の値も高齢層の方が高いが、がん検診ではなく他の健康に関する点で医療機関に足を運ぶ機会が増えるからだろう。
若年層では「がん検診そのものを知らないから」との値が高く出ている。これはひとえに啓蒙不足によるものであり、関係方面のさらなる鋭意努力を求めたい。
若年層で高い値を示している項目は、啓蒙活動のさらなる促進と各種支援制度などの法整備で改善が期待できる。また時間がないとの指摘も、就業者に対する法定健康診断にがん検診を組み込むことなどの工夫を凝らす手立てもある。
がんの治療は何よりも「がん」の発見が最重要課題。万一のことを考えれば、時間や費用など今件の上位回答におけるマイナス部分など、比較にもならないほどの小ささでしかない。また過度の自信でリスクを上乗せするのは愚行でしかない。面倒だと思わずに、定期的な検診をお勧めする。
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