2024-0727厚生労働省は2024年7月26日付で同省公式サイトにて、2023年分の簡易生命表の概況を発表した。そのリリースには日本の最新(2023年)の平均寿命をはじめ、各種平均余命など多彩なデータが公開されている。今回はその中から特筆事項として掲載されていた、特定の死因を除去した場合に平均余命がどれだけ伸びるかについての、前年2022年分との差を算出した「平均寿命の前年との差に対する死因別寄与年数」にスポットライトを当てることにする。日本の医療環境の整備や公衆衛生の成果と、高齢化社会の実態がおぼろげながらも見える結果となっている(【令和5年簡易生命表の概況】)。
先に【男性81.09年・女性87.14年…日本の平均寿命の推移(最新)】でも解説したが、2023年時点の日本の平均寿命は男性81.09年、女性は87.14年。最近の話としては、2011年において3月11日に発生した東日本大地震・震災による影響で生じた、イレギュラー的な減少が確認できる。しかしその翌年2012年には男女とも再び平均寿命は延びる傾向に戻し、2013年以降はその流れを引き継いでいる。そして2021年と2022年は新型コロナウイルスの流行の影響から、前年比で減少することとなった。直近2023年は前年比ではあるが、新型コロナウイルスの影響が薄らいだことから、平均寿命は延びることとなった。

↑ 平均寿命(日本、年)(1990年以降)(再録)
↑ 平均寿命(日本、年)(1990年以降)(再録)

この動きを再確認する意図もあわせ、また昨今の寿命の延びの現状を認識する目的のためか、今回の簡易生命表のリリースでは、報道発表用の概況版で「平均寿命の前年との差に対する死因別寄与年数」が数字付きで記されている。

まず「死因別寄与年数」だが、これは「該当死因を除去した場合、平均余命がどれだけ延びるか」を意味する。ゼロ歳を対象とした場合は、そのまま平均寿命の延びとなる。例えば2023年における男性・ゼロ歳における、死因としての悪性新生物を除去した場合、平均余命(寿命)は3.16年延びるとある。

そして今回提示する値・グラフは、その「死因別寄与年数」の2023年における前年比。直上でも解説した通り2011年には東日本大地震・震災が発生し、その影響が大きく2011年・2012年分のデータには生じていたが、それも2013年にはほぼ消えており、日本の寿命・死因状況は震災以前の状態に戻りつつある。それが別の切り口から分かるのが、次に示す図。参考までに震災の影響を確認できる2012年分も併せて掲載する(本来は震災当年である2011年のものが一番よいのだが、当年の簡易生命表では数字による死因別寄与年数の前年比の公開は行われていない。グラフのみに関する解説は【東日本大震災の地震起因による日本の寿命縮退度合い】を参照のこと。なお2011年における地震を起因とした平均寿命の寄与年数は、男性でマイナス0.26年、女性で0.34年となっている)。ちなみに両グラフでは縦軸の区分が異なる点に注意してほしい。

↑ 平均寿命の前年との差に対する死因別寄与年数(男女別、年)(2023年)
↑ 平均寿命の前年との差に対する死因別寄与年数(男女別、年)(2023年)

↑ 平均寿命の前年との差に対する死因別寄与年数(男女別、年)(2012年)
↑ 平均寿命の前年との差に対する死因別寄与年数(男女別、年)(2012年)

グラフ項目中「交通事故」「熱中症」「地震」は「不慮の事故」に内包されたもの。そして「悪性新生物・心疾患・脳血管疾患」(いわゆる三大成人病)は個々の項目をすべて同時に除去したものである。また2023年のデータでは2012年と比べて「地震」「熱中症」項目などが削除され、「新型コロナウイルス感染症」「大動脈瘤(だいどうみゃくりゅう)および解離」(大動脈が大きく膨らんだ状態になるのが大動脈瘤、大動脈の血管の内壁に亀裂が入って剥離状態となるのが大動脈解離)などが入っている。

この項目の変化は、2023年では地震による平均寿命への影響は、ほとんどゼロと認識してよいほどの状態になったことを意味する。2012年では寄与年数が、大きくプラスに振れていた状況からは大きな変化である(2012年が前年比で大きくプラスに振れたのは、その前年に当たる2011年で地震による不慮の事故者が多発し、結果として平均寿命を押し下げた反動によるもの)。また2012年、さらには今回掲載はしていないものの前年2013年時点では「熱中症」が存在していたが、2014年以降は消えており、少なくとも2014年以降においては熱中症による死亡者が、平均寿命に影響を及ぼすほどの数は発生しなかったことが分かる(記録的な猛暑となり「命の危険」が連呼された2018年でおいてですら、である)。

具体的項目では2023年では「老衰」「その他」が大きなマイナス値を示している。これは2022年と比べて「老衰」「その他」を死因とする人が増えていることを意味する。「その他」の具体的な説明および動向に関する解説は無いが、列挙されている主要な死因以外の多様な原因で亡くなるケースが増えており、それを合算すると大きな数字になると解釈すればよいのだろうか。「老衰」(厚生労働省発行「最新版の死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル」には「高齢者で他に記載すべき死亡の原因が無い、いわゆる自然死の場合のみ用います」と説明されている)も同時にマイナス値を示してることから、その推測は的外れのものでもなさそうだ。

三大成人病による平均寿命はプラス(つまり平均寿命を延ばす)方向にあり、状況は改善されていることも確認できる。

昨今一部で報じられることによって話題となった「自殺」だが、男性はマイナス0.00、女性もマイナス0.00(資料では小数第二位までの表記)。少なくとも平均寿命の観点では、男女ともにわずかだが自殺に関するマイナスの影響が生じている、つまり平均寿命を引き下げる動きを示していることが確認できる。

資料では小数第二位までの有意値が数字として記されているが、それ以下のマイナス値を示している印として、男性では「肺炎」「交通事故」「自殺」、女性では「肺炎」「自殺」が確認できる。ほんのわずかではあるが、これらの項目で寿命を縮める、状況が悪化する動きが見られたことになる。数字の上ではわずかには違いないものの、色々と気になる動きではある。


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