高齢者の人数・人口比率の増加、地域の過疎化などに伴い、高齢者が行う自動車運転によるリスク増大が社会問題化している。高齢運転者(75歳以上)に対し、社会はどのように対処し、規制を設けるべきなのか。警察庁が2014年6月5日に発表した高齢運転者の交通事故防止に関するアンケート結果から、運転免許取得者が考えている対応策について、その内情を確認していく(【発表リリース:高齢運転者による交通事故防止に関するアンケートの実施について】)。



6割は「個人差に応じて」、2割は「年齢で一律規制」


調査要項は今件調査に関する先行記事【死亡事故率2.5倍、89%は「対策強化必要」…高齢運転者の実情】を参考のこと。なお調査場所の事情から、回答者は原則免許取得者であり、自動車運転について一定の知識・経験を有していることに注意しておく必要がある。

実問題として高齢運転者の事故率は、それ以下の若年層と比べて高いという統計結果が出ている。その違いは2013年分の統計データでは約2.5倍に及ぶ。

↑ 2013年の免許保有者10万人当たりの死亡事故件数(再録)
↑ 2013年の免許保有者10万人当たりの死亡事故件数(再録)

それでは「加齢に伴う身体能力の低下で、運転能力が低下する可能性」に対し、交通行政側はいかなる対応をすべきなのだろうか。いくつか想定されうる対応・意見を列挙し、同意できるものを答えてもらったのが次のグラフ。もっとも同意者率が高かったのは「身体能力の低下には個人差があるので、各高齢運転者の運転能力に応じた対策を推進すべき」で62.6%となった。

↑ 高齢運転者は、加齢に伴う身体機能の低下で運転能力が低下している可能性がある。この点に関連して同意できるのは(複数回答)
↑ 高齢運転者は、加齢に伴う身体機能の低下で運転能力が低下している可能性がある。この点に関連して同意できるのは(複数回答)

高齢運転者のリスクが高まるのは、加齢による身体機能の低下。ならばその機能低下に応じ、具体的な対策を講じれば良いというのは、理にかなっている。能力低下が無ければ現状維持で問題は無く、機能の低下に従い公的機関でのチェック頻度を多くする、さらにはチェックをクリアできなければ運転を認めないなどの措置をとるべきというものだ。

ただしこの場合、どの程度の能力でラインを引くべきかという、区切りの問題が大きくのしかかってくる。「免許の新規取得時と同じガイドライン」とするのが合理的だが、それでは「高齢者は毎回更新時に新規に免許を取らねばならないのか」との反発が生じるのは必至である。

一方で具体的な制限、規制は設けずに、啓蒙をさらに促進すべきとの意見も57.8%と多い。まずは当人に自覚してもらうとの発想は一見消極的に見えるが、決して悪いものでは無い。

また、何らかの規制・制限を高齢運転者に設けた場合、該当者が生活上の移動手段として自動車を使っていたのならば、生活そのものに重大な制限が加えられる可能性が生じてくる。実際、今調査別項目でも、身内に高齢運転者を持つ人の1/3は「危険なので出来れば運転を止めさせたいが、移動手段が無くなるので止めさせるわけにはいかない」と答えており、代替手段の確保は今件問題の解消のためには重要な課題となることを示唆している。

他方、年齢でズバリと一刀両断的に切り捨てて規制をすべきだとの意見は23.4%。多いか少ないかは微妙なところだが、規制方法としては単純明快に違いない。ただし身体能力の低下は個人差が大きいので、不公平・理不尽な結果を生み出す可能性を多分に秘めている。

どのような対策が望ましい?


それでは具体的に、高齢運転者に対しては、どのような対策で交通事故防止を行うべきだろうか。各選択肢において「必要である」「やや必要である」「あまり必要でない」「必要でない」の4段階評価をしてもらい、そのうち前者2つ、つまり必要派とカウントできる回答の合計を算出したのが次のグラフ。いずれも、少なくとも過半数には達しており、好意的な人が多いことが分かる。

↑ 75歳以上の高齢運転者による交通事故防止の対策についてどう思うか(必要派回答率)
↑ 75歳以上の高齢運転者による交通事故防止の対策についてどう思うか(必要派回答率)

やや低めな値なのは「優良運転者を対象とする優遇措置設置」で60.9%。いわば良い事例を持ち上げて他にそれを見習ってもらうという施策だが、用意された選択肢の中では評判は一番低い。対策としての切り口が直接的ではなく、効果が薄いと判断されているのかもしれない。

それ以外の4項目はすべて規制的なもので、賛意は9割前後と大部分に達している。特に交通違反・交通事故と具体的な問題事象を引き起こした高齢運転者に対する施策の強化を求める声は9割を超え、多くの人が求めているのが分かる(今調査対象母集団のうち回答者自身が高齢運転者な人は12.3%であることから、高齢運転者自身も少なからずが、これらの対策を求めていることも確認できる)。

一方、難儀する場面での運転をセーブするよう啓蒙をしたり、安全対策支援機能を施した自動車を用いるように薦めるという、からめ手への回答率は少々低め。事象発生後の規制強化より発生前の事前対策の方が合理的ではあるはずなのだが(虫歯を発した後の治療より、虫歯予防の歯みがきをしっかりするようなものだ)、効果への懸念と、啓蒙をしてどこまで実践してくれるかへの不安が、回答率を多少ながらも押し下げているのだろう。



安全意識の啓蒙と個人的な能力に応じた規制、代替手段の整備、そして問題事象への対策強化が、高齢運転者対策としては求められている。今件項目部分はざっとこのように集約することができる。これらを実行するには法改正をはじめ各種施策の実行や体制構築・強化が欠かせず、それなりの労力とリソースが必要となる。該当施策が正当性のあるものか否かの検証はもちろんのこと、実行に移すだけのリソースの確保問題も、今後求められることになろう。


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