高齢者の数・対総人口比の増加、地域社会の過疎化、世帯構成人数の減少などに伴い、高齢者の自動車運転によるリスク体現化事例が増加する問題が、大きく取りざたされるようになった。警察庁の統計でも、絶対人数こそまだ少なめだが、年齢構成比で死亡事故率を算出すると、75歳未満と75歳以上では後者の方が2.5倍も大きいとの結果も出ているほど。それでは高齢運転者(ここでは75歳以上と規定)においては、自らの身体的機能低下による運転の上での変化を、どこまで実体感しているのだろうか。警察庁が2014年6月5日に発表した高齢運転者の交通事故防止に関するアンケート結果を元に、その実情を見ていくことにする(【発表リリース:高齢運転者による交通事故防止に関するアンケートの実施について】)。



調査要項は今件調査に関する先行記事【死亡事故率2.5倍、89%は「対策強化必要」…高齢運転者の実情】を参考のこと。その記事でも解説しているが、2013年の警察庁による統計データでは、高齢運転者の死亡事故率は、それ以下の年齢区分と比較して、約2.5倍との結果が出ている。

↑ 2013年の免許保有者10万人当たりの死亡事故件数(再録)
↑ 2013年の免許保有者10万人当たりの死亡事故件数(再録)

多分に加齢による身体能力の衰えを起因とする、運転上のトラブルがトリガーとなりやすく、それによる事故が若年層と比べて件数を積み増ししてるであろうことは、容易に想像できる。一方で、多くの高齢運転者はそれなりに運転年数を重ねており、その経験から慎重さを心得、上手に運転できるようになっているはず。

そこで高齢運転者自身に、実感として若い頃と比べて運転の上で変わったことがあるか否かをいくつかの項目で4段階「感じる」「やや感じる」「あまり感じない」「感じない」の中から1つ選んでもらい、そのうち前者2つ、つまり「感じる派」の合計を足した結果が次のグラフ。左側2つはポジティブ、それ以外はネガティブな傾向項目である。

↑ 自分自身の運転に関して若い頃と比べて変わったと感じるか(感じる、やや感じるのみ)(75歳以上限定)
↑ 自分自身の運転に関して若い頃と比べて変わったと感じるか(感じる、やや感じるのみ)(75歳以上限定)

ポジティブな項目では「慎重に運転するようになった」が94.0%と、ほとんどの人が肯定している。ただし「経験を重ねて上手に運転できるようになった」は54.7%に留まっており、慎重さと上手な運転とは必ずしも一致しないことが分かる。また「感じる」と「やや感じる」の比率の違いでも「慎重」の方が多く、運転が上手になることの難しさを認識させる。

一方ネガティブな方面では、「夜間やトンネル内で見えにくくなった」が74.8%とほぼ3/4、「咄嗟の動作や複雑な動作がスムーズにできにくくなった」が59.6%とほぼ6割に達している。視覚の衰え、頭の中の判断が鈍るだけでなく、その判断を元に実行動へ移すまでの反射能力が衰えたり、さらには判断そのもののミスをしてしまうことも多くなると、これだけの人が実感している。自動車運転の際のこれらの行動の劣化は、ほんの少しの度合いでも、大きな影響を及ぼし得るため、軽視するわけにはいかない。

また注目したいのは「新しく変更された交通ルールを覚えにくくなった」で、こちらは55.8%と過半数に達している。どの程度の難儀さを感じているかは人それぞれだが、まったく覚えられない人だけでなく、何かそのルールに関する判断が必要になった際に、瞬時にそれが出てこず、判断ミスにつながる可能性はある。その判断ミスが、交通ルールを正しく守っている人に被害を与え得るかもしれないことを考慮すると、事は重大ではある。

さらに直接「これは危ない」と容易に思える「信号機や一時停止線を見落としやすくなった」「ハンドルやブレーキの操作がスムーズにできにくくなった」も4割近くに達している。程度は人それぞれではあるが、第三者から見れば少々怖い話と評せざるを得ない。



「変わった」、つまり劣るようになった度合いがとの程度まで達しているのか、運転の際にリスクを底上げするほどまでのものなのか否かは、各事例毎の検証が必要なため、一律に「自覚症状があれば運転を制限すべきだ」との判断は正しいとはいえない。

一方で今件調査はあくまでも高齢運転者自身の自答によるもので、本人が自認していないレベルで、能力が低下していることも多分に有り得る。第三者による公正な見聞きにより、適切な判断と対応ができるような仕組みの構築を願いたいものだ。


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