年金支給開始の歳との兼ね合わせもあるものの、通常の企業では60歳から65歳が定年退職の歳となる。一方で役員や自営業・自由業などは比較的自由にリタイアのタイミングを選べる(欧米などでは就業者でもこのタイプ)。また、年金支給開始の歳のずれこみや、支給額では必要な生活費に足りない、社会の上での接点を維持したいなと多様な理由で、定年退職後も再び職を得て働く事例も増えている。それでは定年退職の時期が具体的な話となりつつある中堅層以降では、具体的に何歳位まで収入を伴う仕事をしたいと考えているだろうか。内閣府が2014年6月13日に公開した、高齢期に向けた「備え」に関する意識調査を基に、高齢期における就業への想いを確認していくことにする(【発表リリース:高齢期に向けた「備え」に関する意識調査】)。



65歳から70歳、あるいは働けるうちはずっと


今調査は2013年11月28日から12月31日に渡って、層化二段無作為抽出法で選ばれた全国の35歳から64歳の人に、郵送配布・郵送回収方式で行われたもの。有効回答数は2707人。

冒頭で触れた通り、金銭面の事情や対人関係の維持から、定年退職後も就労状態にありたいとする希望は少なからずある。一方で身体的な衰えや第二の人生を楽しみたいとの考えを持つ人も多い。それでは就業のうち、実際に対価が発生する仕事をしたい人はどれほどいて、具体的に何歳位まで働きたいと考えているのだろうか。

↑ 現在の就労状態に関わらず60歳以降に収入を伴う仕事をしたいか・したい場合は何歳までしたいか
↑ 現在の就労状態に関わらず60歳以降に収入を伴う仕事をしたいか・したい場合は何歳までしたいか

早期退職制度の適用をのぞいても、早い企業では60歳で定年退職となるところもあるため、60歳を仕切りとした設定となっている。最多回答項目は65歳位までで31.4%。次いで70歳位までで20.9%。合わせて5割強が、定年退職後も数年間は、遅くとも70歳位までは働きたいとしてしている。それ以上の歳になるとさすがに体の無理がたたると判断しているのか、回答率はグンと下がり、3.8%でしかない。

一方で「働けるうちはずっと」の回答率は1/4強の25.7%。職種にもよるが、年齢の区切りを定めずに、出来る限りは就業し続けたいとの想いを持つ人がこれだけ居ることになる。一方で60歳以上働きたくないとの意見を持つ人は1割強に留まっている。「分からない」を合わせて考慮すると、8割以上は60歳を超えても何らかの形で収入が得られる仕事をしたいと思っていることになる。

男女別・就業形態別の動向


これをいくつかの属性で仕切り直してその傾向を確認してみることにする。まずは男女別。

↑ 現在の就労状態に関わらず60歳以降に収入を伴う仕事をしたいか・したい場合は何歳までしたいか(男女別)
↑ 現在の就労状態に関わらず60歳以降に収入を伴う仕事をしたいか・したい場合は何歳までしたいか(男女別)

女性は男性と比べて具体的な歳を定めた上での就労希望が少ない一方で、「働けるうちはずっと」の回答率が高い。自分の身体と相談し、出来る限り働き続けたいとする意欲がうかがえる。一方で「60歳以上はしたなくい」との意見も男性よりも多く、二極化の傾向がうかがえる。

男性は65歳位までと70歳位までを合わせてちょうど6割。75歳位までを合わせるとほぼ2/3。年齢はともかく就労希望者は9割近く。定年退職を迎えるタイミングの60歳を超えても、何らかの形で就業したい人が男性では9割近くいることになる。

現在の就労状況別では、その就業状態による差が大きく表れている。

↑ 現在の就労状態に関わらず60歳以降に収入を伴う仕事をしたいか・したい場合は何歳までしたいか(現在の就労状況別)
↑ 現在の就労状態に関わらず60歳以降に収入を伴う仕事をしたいか・したい場合は何歳までしたいか(現在の就労状況別)

回答時点で仕事をしていない人、在宅就労の人は、60歳以上になったら仕事はしたくないとの回答がずば抜けて多い。一方で在宅就労では「働けるうちはずっと」との回答も多く、農林漁業関係者と同程度の値を示している。近い値は自営・個人事業主も示しており、これらの立場にある人は職の特性を活かし、ずっと働き続けたいと考えていることが分かる。

他方、似たように年齢制限が無いに近い役員の場合は「働けるうちはずっと」の回答率は意外に低く、「65歳位まで」「70歳位まで」と具体的な値を示し、その回答率が高い。会社側における役員規定で定められているのか、あるいは区切りの良いところで現役世代に委ねるとの考えを持っているのかもしれない。



現在の就労状況にもよるが、全体では中堅層の9割近い人が「60歳を超えても収入の得られる仕事を続けたい」と考えていることになる。労働市場は簡単に拡大できないことを考えると、それだけ既存の、あるいは若年層による新規雇用を圧迫するリスクが上乗せされてしまう。ワークシェアの考えでは中途半端な収入しか得られないことになり、既存の労働者、特に新人の若年層の生活が成り立たなくなる。

無いリソースは振れない。一番良いのは市場の「パイ」そのものを拡大することだが、それが容易ならざるのが現状。より多くの人の需要を満たせるような、賢い切り口の模索が続けられよう。


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