先に掲載した【乳児の死亡率変移】に関して寄せられた多様なご意見の中で、「もう少し細かな、昔からの推移を見たい」なるものが目にとまった。そこで今回は約100年の昔から現在に至るまでの乳児、そしてさらには新生児の死亡率に関する変移グラフを作成し、状況精査を行う。

抽出データの解説と乳幼児の動向


大部分、特に過去のデータの取得元は【平成10年(1998年)の人口動態統計月報・年計】。この回では人口動態調査が現在のスタイルを取り始めてから100周年を迎えたことを記念し、主要項目について100年の年次推移で公開し、分析を行っている。さすがに1944年から1946年は太平洋戦争の末期から戦後直後にかけての混乱期だったこともあり、値は空欄だが、それ以外は各項目ごとに実数値などが盛り込まれている。一方で1998年分の値は概算値、それ以降は当然収録されていない。

そこで1998年分以降は【人口動態調査統計一覧】から、一年分ずつ各値を調べ、値の補完をしていく。最新データは2022年9月に発表された【令和3年(2021)人口動態統計(確定数)の概況】となる。

また言葉の定義だが、「乳児」と「新生児」の違いは次の通りとなる。

・「新生児」…産まれた日を零日とした場合、生後零日から28日未満の児

「乳児」…  〃  一歳に満たない児
 (※「乳児」に「新生児」は含まれる)

それではまず、先の記事同様に乳児の死亡数・死亡率の推移。これを1899年以降継続して2021年分まで、そして太平洋戦争後に限って再構築したもの、計2つをグラフ化した。

↑ 乳児死亡数・死亡率
↑ 乳児死亡数・死亡率

↑ 乳児死亡数・死亡率(戦後限定)
↑ 乳児死亡数・死亡率(戦後限定)

今回のデータ収録範囲でもっとも大きな値を示しているのが、1918年、スペイン風邪が流行した時期。【インフルエンザとタミフルとスペイン風邪と】でも触れている通り、世界中で猛威をふるったインフルエンザにより、日本でも多数の人が感染、死亡者が出た。現在と比べれば医療技術・衛生環境に劣る当時は、体力の少ない乳児のリスクも高く、実に18.9%もの死亡率を示している。100人の乳児出生に対し、19人近くが亡くなる(もちろん起因はスペイン風邪だけではないが)計算。直近における2021年の0.17%を知っていると、信じられない値ではある。

先の記事のグラフでは戦後、しかも1950年代以降に限ってからのもので、戦後直後における動向、戦前については不明だった。しかし今回のグラフにより、20世紀初頭まで死亡率・死亡数が高止まりしていたこと、そして少しずつ、しかし確実にリスク軽減を果たし、1960-1970年の高度成長期を経て、一定水準の低さにまで到達したこと、さらにそれ以降も引き続き、確実に安全化・低リスク化を推し進めていることが手に取るように分かる。

よりリスクが高い新生児は?


「技術の発展とともに、劇的に表れる低リスク化」は、よりリスクが高い時期を対象とした新生児でも同様の動きであることが確認できる。

↑ 新生児死亡数・死亡率
↑ 新生児死亡数・死亡率

↑ 新生児死亡数・死亡率(戦後限定)
↑ 新生児死亡数・死亡率(戦後限定)

上の解説にもある通り、「新生児」の対象期間は「乳児」の1/12(「28日≒1か月」と「12か月」の比較)でしかない。にもかかわらず、スペイン風邪の事例の吹き出しに記述されている数字を見れば分かるように、死亡者数・率は半数近い値を示している。この時期の新生児・乳幼児、特に新生児がいかに高いリスクを背負っているのかがうかがえる。

その新生児の死亡率・死亡数も年とともに確実に減少。昨今ではほとんど直線、ゼロに近い値にまで減っているのが分かる。ちなみに直近の2021年においては0.08%(実人数658人)でしかない。



今回取得できたデータのうち、もっとも古い1899年と、直近の2021年のものを併記すると次の通りとなる。

乳幼児死亡率……15.38%/0.17%
新生児死亡率……7.79%/0.08%

※(1899年/2021年)

それぞれ約1/90、約1/97にまで減少している。現場で働く医療関係者の努力、医療保健科学の進歩、そして公衆衛生概念の普及浸透、エネルギーの活用が、これだけの成果を生み出している。

わらべ歌の「通りゃんせ」のフレーズにある「七つのお祝いに お札を納めに参ります」は、当時では乳幼児の死亡率が高く、7歳まで生き伸びることが今と比べて難しいため、無事に成長してその歳まで生きながらえたことを祝う儀式を表している…とする解釈がある。日本でもほんの数十年前、百余年前までは上記グラフにある通り、乳児・新生児の時点で生き長らえることが出来ず、世を去らねばならない命が多数存在していた事実を、今回のグラフとともに知らねばならない。

そして数多の環境整備・各方面の努力によって現状が支えられていることを、改めて認識するべきである。「当たり前だ」「何をいまさら」とする意見もあるだろう。しかし、やもすれば不確かな知識のみ、あるいは現実と物語を混同した上で物事を主張する人が見受けられる昨今だからこそ、その認識が求められていることは言うまでもない。


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