厚生労働省は2022年9月16日付で、人口動態調査における人口動態統計(確定数)の2021年版となる値の概況改訂版を発表した(【発表ページ:令和3年(2021)人口動態統計(確定数)の概況】)。今回はこの発表値などをベースに、主要死因別に見た死亡率の変化をグラフ化し、状況の変化などの精査を行う。
直近のデータは上記にある通り、人口動態統計の最新版から。その最新データにおいて時系列の値も収録されており、これを利用する。おおよそ1899年以降の値が収録されている(一部は1908年以降。また戦中から戦後直後の混乱期は調査そのものがされておらず値が存在しない)。
グラフ中の比率は「%」表記の無い限り、基本的に人口10万人比(日本国内の日本人人口10万人あたり何人がその年に、その死因で亡くなったか)。1899年以降継続して直近分となる2020年分まで、そして戦後に限って再構築したもの、さらには直近年分の値の実情、計3つをグラフ化した。

↑ 主要死因別にみた死亡率(人口10万対、人)

↑ 主要死因別にみた死亡率(人口10万対、戦後限定、人)

↑ 主要死因別にみた死亡率(人口10万対、人)(2021年)
全般的な状況を確認すると、戦前は「肺炎」「結核」を死因とする死者が異様に多いことが分かる。乳児・新生児の記事でも解説したように、公衆衛生の整備が(今と比べて)立ち遅れていたこと、医療技術の未熟さ、健康管理に関する世間一般の非医学的な慣習などが原因として挙げられる。また、「スペイン風邪」「関東大震災」など大きな世の中の動きに、今件グラフも値の変移を見せることも把握できる(先の東日本大震災による「不慮の事故」での増加もわずかながら確認できる)。
他方戦後の1995年におけるイレギュラー的な動きは、やはりグラフ中吹き出しで触れている通り、死因判定などの仕組みの変化(人口動態統計の説明を読むと「死亡診断書の注意書きの記載」「ICD-10による原死因選択ルールの明確化」)が原因として挙げられる。突然医学・健康分野における変異が生じたわけではない。
戦後の動向に限って見返すと、終戦直後は「結核」が戦前同様に1位にあったものの、医療技術の発展、予防策の浸透などで大幅に減少する。代わりに「悪性新生物(いわゆる「がん」)」「心疾患」「脳血管疾患」「肺炎」など、高齢化と連動して発生しやすい疾患が増加している。
「悪性新生物」の上昇傾向に関しては、「がんが強力化している」「がん対応策が立ち遅れている」などの誤解を招くことがある。しかし実際には「他の死因リスクが減った」「がんに発症、亡くなりやすい高齢者の総人口比が増加している」のが原因。
今件グラフでは特に、戦前と戦後の動向を見比べ、公衆衛生や医療技術の進歩でいくつもの疾患による死亡事例を減らせることができた事実、そして特に戦後に入って増加を見せる死因(「がん」「肺炎」)が、高齢化によるものであることを見定めるのが肝要である。
なお2017年において「肺炎」の値が大きく減っている件について当時の報告書では「『肺炎』の低下の主な要因は、『ICD-10(2013年版)』(平成29年適用)による原死因選択ルールの明確化によるものと考えられる」と説明している。肺炎の特効薬が見つかった、劇的な治療法が開発された結果、肺炎のリスクが減ったわけではない。
蛇足ではあるが、「平均寿命との兼ね合わせを見てみたい」との意見があり、それに応える形で作成したグラフを呈示しておく。グラフに表記される要素が増えるので、見難くなるのが難点ではあるが。

↑ 主要死因別にみた死亡率(人口10万対、平均寿命追加、人)
戦後に至り、各種死亡要因への対処が進むに連れて、寿命も少しずつ延びていく様子が分かる。それと同時に、他の死因が減ることで解消しにくい要因や、歳を重ねるとともに避けられない要因が増加しているのも把握できる。「悪性新生物」「心疾患」「肺炎」による死亡率増加が、医療技術の退化や環境悪化によるものではなく、高齢化とともに起きていることが、あらためて理解できよう。
さらに蛇足感は否めないが、主要死因には該当しないものの、今後増加することが容易に想像できる「老衰」に関する死亡率を掲示しておく。

↑ 主要死因別にみた死亡率(人口10万対、老衰、人)
意外に思えるかもしれないが、戦前の方がむしろ老衰による死亡率は高かった。これは直上のグラフなどからも分かる通り、そもそも論として平均寿命が短かったからに他ならない。「悪性新生物」や「心疾患」を発症し、直接起因として亡くなるより前に、老衰で亡くなってしまう人が多数いたということ。さらに当時の医療技術では具体的な病症の判断ができず、老衰とされた事例もあったものと思われる。
昨今では再び上昇しているが、こちらは急激な高齢化に伴うものである。とはいえ、今なお戦後直後の水準でしかない。ただし今後「悪性新生物」などの治療法の開発が進めば、この値はさらに増加していくことだろう。
■関連記事:
【がんが怖い人3/4、理由は「死に至る場合があるから」】
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グラフ中の比率は「%」表記の無い限り、基本的に人口10万人比(日本国内の日本人人口10万人あたり何人がその年に、その死因で亡くなったか)。1899年以降継続して直近分となる2020年分まで、そして戦後に限って再構築したもの、さらには直近年分の値の実情、計3つをグラフ化した。

↑ 主要死因別にみた死亡率(人口10万対、人)

↑ 主要死因別にみた死亡率(人口10万対、戦後限定、人)

↑ 主要死因別にみた死亡率(人口10万対、人)(2021年)
全般的な状況を確認すると、戦前は「肺炎」「結核」を死因とする死者が異様に多いことが分かる。乳児・新生児の記事でも解説したように、公衆衛生の整備が(今と比べて)立ち遅れていたこと、医療技術の未熟さ、健康管理に関する世間一般の非医学的な慣習などが原因として挙げられる。また、「スペイン風邪」「関東大震災」など大きな世の中の動きに、今件グラフも値の変移を見せることも把握できる(先の東日本大震災による「不慮の事故」での増加もわずかながら確認できる)。
他方戦後の1995年におけるイレギュラー的な動きは、やはりグラフ中吹き出しで触れている通り、死因判定などの仕組みの変化(人口動態統計の説明を読むと「死亡診断書の注意書きの記載」「ICD-10による原死因選択ルールの明確化」)が原因として挙げられる。突然医学・健康分野における変異が生じたわけではない。
戦後の動向に限って見返すと、終戦直後は「結核」が戦前同様に1位にあったものの、医療技術の発展、予防策の浸透などで大幅に減少する。代わりに「悪性新生物(いわゆる「がん」)」「心疾患」「脳血管疾患」「肺炎」など、高齢化と連動して発生しやすい疾患が増加している。
「悪性新生物」の上昇傾向に関しては、「がんが強力化している」「がん対応策が立ち遅れている」などの誤解を招くことがある。しかし実際には「他の死因リスクが減った」「がんに発症、亡くなりやすい高齢者の総人口比が増加している」のが原因。
今件グラフでは特に、戦前と戦後の動向を見比べ、公衆衛生や医療技術の進歩でいくつもの疾患による死亡事例を減らせることができた事実、そして特に戦後に入って増加を見せる死因(「がん」「肺炎」)が、高齢化によるものであることを見定めるのが肝要である。
なお2017年において「肺炎」の値が大きく減っている件について当時の報告書では「『肺炎』の低下の主な要因は、『ICD-10(2013年版)』(平成29年適用)による原死因選択ルールの明確化によるものと考えられる」と説明している。肺炎の特効薬が見つかった、劇的な治療法が開発された結果、肺炎のリスクが減ったわけではない。
蛇足ではあるが、「平均寿命との兼ね合わせを見てみたい」との意見があり、それに応える形で作成したグラフを呈示しておく。グラフに表記される要素が増えるので、見難くなるのが難点ではあるが。

↑ 主要死因別にみた死亡率(人口10万対、平均寿命追加、人)
戦後に至り、各種死亡要因への対処が進むに連れて、寿命も少しずつ延びていく様子が分かる。それと同時に、他の死因が減ることで解消しにくい要因や、歳を重ねるとともに避けられない要因が増加しているのも把握できる。「悪性新生物」「心疾患」「肺炎」による死亡率増加が、医療技術の退化や環境悪化によるものではなく、高齢化とともに起きていることが、あらためて理解できよう。
さらに蛇足感は否めないが、主要死因には該当しないものの、今後増加することが容易に想像できる「老衰」に関する死亡率を掲示しておく。

↑ 主要死因別にみた死亡率(人口10万対、老衰、人)
意外に思えるかもしれないが、戦前の方がむしろ老衰による死亡率は高かった。これは直上のグラフなどからも分かる通り、そもそも論として平均寿命が短かったからに他ならない。「悪性新生物」や「心疾患」を発症し、直接起因として亡くなるより前に、老衰で亡くなってしまう人が多数いたということ。さらに当時の医療技術では具体的な病症の判断ができず、老衰とされた事例もあったものと思われる。
昨今では再び上昇しているが、こちらは急激な高齢化に伴うものである。とはいえ、今なお戦後直後の水準でしかない。ただし今後「悪性新生物」などの治療法の開発が進めば、この値はさらに増加していくことだろう。
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