昨年の10月に上陸した台風への対応において、鉄道機関の一部が実施したことで一躍有名になった防災の仕組み「タイムライン防災」。想定されうる自然災害に、国土交通省が設けたガイドラインなどに従い、事前に運休をはじめとした各種措置を取ることを指すものだが、認知度がまだ高くなかったことから、さまざまな論議を巻き起こすこととなったのは記憶に新しい。今回は東京工芸大学が2014年12月17日に発表した調査結果「災害情報の活用に関する調査」から、その実情を確認していくことにする(【発表リリース:災害情報の活用に関する調査(2014)】)。



今調査は2014年11月12日から16日に渡って携帯電話を用いたインターネット経由で、20歳以上の男女に対して行われたもの。有効回答数は1000件。男女比・10歳区切り(60歳以上はすべてひとまとめ)の世代構成比は均等割り当て。調査実施機関はネットエイジア。

2014年10月中旬に日本を縦横断した台風19号。非常に大きな勢力を有し、上陸予想も高い精度でなされていたことから、各交通機関では上陸前日から運休が決定されていた。これは国土交通省の分科会で決定された「大規模水災害に備えたタイムライン(防災行動計画)」なるガイドラインに従った、自然災害が発生してから交通機関が止まることによるトラブル(例えば勤務先に取り残される)を最小限にするための手法(【社会資本整備審議会>河川分科会>第五十回 河川分科会 配布資料】)。

↑ 大規模水災害に備えたタイムライン(防災行動計画)の策定に向けて。事前の協定に基づき、「緊急避難路・運行停止」「運行停止手順の確認/公表」の記述がある
↑ 大規模水災害に備えたタイムライン(防災行動計画)の策定に向けて。事前の協定に基づき、「緊急避難路・運行停止」「運行停止手順の確認/公表」の記述がある

要は台風などの事前にある程度予測ができる自然災害に対し、被害が起こることを前提に、あらかじめ行うべき対策を時系列で計画し、それを実行することを意味する。この「タイムライン防災」に関して、知っているか否かを尋ねた結果が次のグラフ。内容まで良く知っている人は3%に留まり、言葉を聞いたことがある人も1/4程度でしかなかった。

↑ タイムライン防災を知っているか
↑ タイムライン防災を知っているか

通勤で実影響を受ける可能性が高いことから、男性の方がやや周知度は高いものの、大きな違いはない。また世代別では傾向付けられる動きは無く、大よそ同じような値に留まっている。7割強は言葉そのものすら、聞いたことが無いのが現状ではある。

それでは具体的にタイムライン防災の内容とメリット(対応策が立案できるのでチェック漏れや混乱を防げる、事前行動のため発生しうる損失をより抑えられる)、デメリット(自然災害が体現化しなかった場合、経済的・時間的損失が生じる)を説明した上で、どの程度賛同できるかを聞いたところ、8割から9割近くで賛意が示される形となった。

↑ タイムライン防災の実施に対する同意度(内容説明後)
↑ タイムライン防災の実施に対する同意度(内容説明後)

公共交通サービスに対する導入・履行はほぼ9割が同意を示しており、反対派は1割前後。民間企業の場合(従業員の自宅待機や出勤時間の変更、早期帰宅の決定など)は9割を超えており、公共交通機関より高い同意率が得られている。一方、自分自身の世帯においてもこの考えで防災計画の用意・見直しをしたい人は8割足らずで、やや少なめ。そこまでやる必要は無いとのことなのかもしれない。

男女別に見ると、出勤などで実影響の大きい公共交通機関では男性の方が高めだが、民間企業、世帯そのものでは女性の方が積極的な同意を見せている。災害に対する反応は得てして女性の方が敏感な傾向があるが、それが今件にも表れているといえよう。



グラフ化は略するが、今調査では「タイムライン防災が日本社会に根付くか否か」の感想も尋ねている。大よそ「根付いてほしい」「しかし根付くのには時間がかかる」との意見が大勢を占めている。2014年10月の台風19号の際に公共交通機関で実施されたタイムライン防災においても、知識人と呼ばれる方々が大いなる反発を示した状況を見るに、その感想は的を射ていそうな気がしてならない。


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