官民を問わず定点調査の類は同様の条件を用意するが、調査対象母集団そのものは毎回別人に行われるのが常となる。同一人物を追いかけるのには大きなリソースが必要になるからだ。ところが厚生労働省が毎年実施している「中高年者縦断調査」は数少ない「同一人物に対する継続調査」として知られている。今回はその調査結果から、間もなく定年退職期を迎えようとしていた人達による「老後はこれらのお金で生活をまかないたい」との希望と、時間経過後におけるその現状について見ていくことにする(【発表リリース:第9回中高年縦断調査(中高年の生活に関する継続調査)】)。



今調査は2005年10月末時点で50歳代の男女を対象とし、毎年11月に定点観測的に「同一人物に対して」調査票の郵送方式によって行われているもの。直近となる2015年2月12日に発表された第9回分は2013年11月に実施された調査結果である。第9回における有効回答数は2万3722人。そのうち全9回調査結果分が確認可能な2万1556人分を集計に用いている。

次に示すのは第1回調査(2005年10月実施。回答者は50歳代)において、回答者が60歳以降にどのような収入様式で生活をまかないたいか、主なものを3つまでの複数回答で挙げてもらった結果。最上位は公的年金(国民年金、厚生年金など)で、46.5%が当てにしていると回答した。

↑ 第1回調査(2005年10月末時点で50歳代対象)における、60歳以降の生活のまかない方の希望(主なもの3つまでの複数回答)
↑ 第1回調査(2005年10月末時点で50歳代対象)における、60歳以降の生活のまかない方の希望(主なもの3つまでの複数回答)

次いで多いのは本人による就労所得で39.4%。65歳以上では無く60歳以上に関する問いなので、想定時点でまだ就労している可能性が多分にあることから、多くの人が就労所得を回答に挙げている。そして預貯金の取り崩し、配偶者などによる就労所得、退職金が続く。退職金の回答率が低めなのは、自営業者が多分にいるのが一因。もちろん退職金を取得できても「主な収入」には成り得ない・しないと判断している人もいる。

では実際、このような目論見をした人たちは60歳を過ぎた時に、どのような実態となったであろうか……というのが次のグラフ。第1回回答時に50歳代でも、第9回の回答時にはまだ60歳に達していない人もいるので、60歳に届いた人に限定して実態を聞いた結果が次のグラフ。こちらは単純な複数回答で、項目もある程度整理統合した上で尋ねている。3つまでの回答制約は無い。

↑ 第9回調査時点で60-67歳の者における収入状況(複数回答)
↑ 第9回調査時点で60-67歳の者における収入状況(複数回答)

公的年金に頼る人が7割を超え、目論見よりも多くの人が年金頼りとなっているのが分かる。次いで就労所得が半数。こちらも目論見よりは回答率が高いが、今件項目では本人と配偶者などが一体化しているので、実態としてはほぼ目論見通りというところか。私的年金や資産収入もほぼ目論見に近い値が出ており、公的年金以外はほぼ予想していた通りの実態となったことが分かる。

他方「収入なし」の回答率も11.5%に達している。「その他」には「雇用保険」「生活保護などの社会保障給付金」「子供などからの仕送り」も含まれており、それらも含めて収入が無い状況は想定しにくいが、実態としては1割が60歳代で収入源が無いと回答している。

ただし「生活のまかない方」と「収入のある無し」とは微妙に食い違う。「収入」は新たに発生した所得などであり、現在手持ちの金融資産の切り崩しは意味しない。「収入無し」の人は一銭も生活費用を消費しない・出来ないのでは無く、手持ちの資産、例えば預貯金や退職金を取り崩して生活していると考えれば道理は通る。また年金に関しても、支払い開始時期に達していない、あるいは先延ばし制度を適用している場合もあるだろう。

これを第1回の目論見の回答項目別に整理しなおした結果が次のグラフ。例えば「就労所得(本人)」の横軸項目における「就労所得」は70.3%と出ているので、第1回調査の際に「自分は60歳を過ぎたら主に自身の就労所得で生活していく」と回答した人のうち7割が、実際に自分の就労所得で生活していることを意味する。50歳代時点の目論見がどれほど現実化しているかを、大よそ推し量るグラフである。

↑ 第1回調査時の「60歳以降の生活のまかない方」の希望別、第9回調査時の収入の実態(第9回時60~67歳限定)(複数回答)
↑ 第1回調査時の「60歳以降の生活のまかない方」の希望別、第9回調査時の収入の実態(第9回時60~67歳限定)(複数回答)

資産収入による生活を目論んでいた人は、その時点でそれなりの当てがあったと思われ、実際に4割強の人か資産収入で生活している。この資産収入とは家賃・地代、利子・配当金などを意味し、資産そのものの切り崩しは意味しない。似たようなパターンに私的年金を当てにしている人の事例では33.6%が実際に私的年金を収入としている。

実質的には既存資産の切り崩しによる生活を意味する「収入なし」の動きを見ると、配偶者などの勤労所得や仕送りその他など、回答者以外からの収入による老後を目論んでいた人、預貯金の取り崩しによる生活を想定していた人で、やや高い値が出ている。それなりの予想が立っていたのだろう。

また退職金などのまとまった資産、資産収入などの安定した収入源による生活を目論んでいた人ですら、4割以上が就労所得による生活を行っている。回答時点で定年退職を迎えていない、あるいは再雇用制度を適用している可能性も多分にあるが、60歳で就労からは身を引くとの状況にはあまり無いことが分かる。

別調査項目では、現在就労している人の7割から8割が「現在の生活費のために働いている」とし、「将来の生活資金のため」が続いている。高齢者の労働理由の一つとして世間一般に語られている「健康維持」「社会とのつながり維持」「社会貢献」などの回答はそれぞれ1割から3割程度の回答率しかない。多くの高齢者は生活費のメインとして就労をし続けているのが現状のようだ。


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