2023-1013先行記事【熱中症による死亡者の動向(人口動態調査版)】では厚生労働省が2023年9月15日付で2022年分の確定報を発表した、人口動態調査における人口動態統計の公開値を基に、同統計による熱中症の死亡者数の推移を確認した。今回は関連公開値をたどり、その死亡者がどのような場所で死亡したのか、つまり熱中症の発生場所の動向を確認していくことにする(【令和4年(2022)人口動態統計(確定数)の概況】)。
熱中症の発症リスクは、若年層から就業者層までは屋外が多く、高齢層になると屋内が多くなることは、国立環境研究所の定点観測調査の結果公開値を分析した【熱中症による救急搬送者の内情】でも言及している通り。今回は人口動態統計における「熱中症による死亡者」の定義に従った死亡者が、どのような場所でその死因が発生したのかを確認する。

まずは直近分となる2022年分…だが、先の記事の通り、単年分では値が少なめで、各年の気候状況によるぶれが生じやすいため、該当年に加え過去2年分の値を合わせた平均値を用いる。また対象となる場所は「家(庭)」「居住施設」「学校、施設および公共の地域」「スポーツ施設および競技施設」「街路およびハイウェイ」「商業およびサービス施設」「工業用地域および建築現場」「農場」「その他の明示された場所」「詳細不明の場所」で区分されている。「家(庭)」なら自宅内や庭先の草刈りの過程などがよい例。部活動ならば「学校、施設および公共の地域」や「スポーツ施設および競技施設」、就業中ならば「街路およびハイウェイ」「商業およびサービス施設」「工業用地域および建築現場」、あるいは農家ならば「農場」が主な状況下となる。

↑ 年齢階層別・熱中症死亡者の発生場所(人口動態調査、該当年と過去2年を合わせた平均値、年齢階層別、人)(2022年)
↑ 年齢階層別・熱中症死亡者の発生場所(人口動態調査、該当年と過去2年を合わせた平均値、年齢階層別、人)(2022年)

熱中症による死亡者の8割台が65歳以上の高齢者で占められていることは、すでに先行記事で言及した通り。その中でも多くが自宅内、あるいは詳細不明の場所であることが分かる。この「詳細不明の場所」について詳しい説明はない(具体例の記載がない)が、熱中症で死亡したこと自体はカウントされていることから、見方を変えれば発見時に詳しい状況が確認できない状態にある、あるいは死亡診断書を記載した医師が状況を把握しきれず・判断が難しいとして、「詳細不明の場所」に割り振った可能性は高い。さらに年齢が上になるに連れて生じている「詳細不明の場所」の増加傾向が、「家(庭)」とほぼ同じ傾向にあることから、多分に「詳細不明の場所」は「家(庭)」と近い状況による発生と見ても、的外れなものではないだろう。

報道では高齢者の農作業時における熱中症発症の事例がよく伝えられる。実際、「農場」の値も歳を重ねるに連れて増えているのが確認できる。「詳細不明の場所」のうち多少は実質的に「農場」のものもあるだろう。しかし一方で、高齢者における「家(庭)」での熱中症による死亡者がいかに多いかが改めて分かる次第である。

これを男女別に見たのが次のグラフ。高齢層は人口そのものにおいて女性の方が多いため、死亡者数も女性が多くなる傾向がある。

↑ 熱中症死亡者の発生場所(人口動態調査、該当年と過去2年を合わせた平均値、男性、年齢階層別、人)(2022年)
↑ 熱中症死亡者の発生場所(人口動態調査、該当年と過去2年を合わせた平均値、男性、年齢階層別、人)(2022年)

↑ 熱中症死亡者の発生場所(人口動態調査、該当年と過去2年を合わせた平均値、女性、年齢階層別、人)(2022年)
↑ 熱中症死亡者の発生場所(人口動態調査、該当年と過去2年を合わせた平均値、女性、年齢階層別、人)(2022年)

やはり高齢層における「家(庭)」での死亡者数が目立つ形となっている。男性の方が「詳細不明の場所」の全体に占める割合が大きく、その他の場所でも数がそれなりに見受けられるのは、行動傾向の違いによるところだろう。また80歳以上の「農場」で、男女を問わず高い値が出ており、(恐らくは地方農村部で)80歳以上の人において農作業時の熱中症による死亡が多い実態がつかみ取れる。特に男性に限った話ではないようだ。



やや余談となるが、先の熱中症による死亡者数動向でも言及した、昔と比べて現在は死亡者数そのものが増えている件に関して、今回の区切りと同じように、年齢階層と発生場所別に試算をした結果が次のグラフ。

↑ 熱中症死亡者の発生場所(人口動態調査、該当年と過去2年を合わせた平均値と、2001年と過去2年を合わせた平均値の比較、年齢階層別、倍率)(2022年)
↑ 熱中症死亡者の発生場所(人口動態調査、該当年と過去2年を合わせた平均値と、2001年と過去2年を合わせた平均値の比較、年齢階層別、倍率)(2022年)

熱中症による死亡者が、(人口そのものの増加率以上に)高齢者で増えていることは先の記事で解説した通りだが、その増加が主に「家(庭)」や「商業およびサービス施設」で生じていることが分かる。ちなみに「商業およびサービス施設」とは具体的には「小売店、デパート、商店街、ガソリンスタンド、銀行、ホテル、旅館など」を指している。もっともこれは純粋に倍率のみで、数そのものは一人二人であることから、さほど気にするものでもない。むしろ「農場」や「家(庭)」、そして「詳細不明の場所」の増加に注意を払うべきかもしれない。


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