2019-1004内閣府大臣官房政府広報室は2019年9月27日、がん対策・たばこ対策に関する世論調査の結果を発表した。それによると調査対象母集団においては、病症の「がん」を怖いと思っている人は7割強であることが分かった。理由としては「死に至る場合があるから」がもっとも多く、「がんの治療や療養には、家族や親しい友人などに負担をかける場合があるから」が続き、「治療費が高額になる場合がある」など費用の面での怖さを覚える人も多数に及んでいる(【発表リリース:がん対策・たばこ対策に関する世論調査】)。



「がん」に対する印象「怖い」は74.4%


今調査は2019年7月25日から8月4日にかけて、層化2段無作為抽出法によって選ばれた全国18歳以上の日本国籍を持つ人に対し、調査員による個別面接聴取方式にて行われたもので、有効回答数は1647人。男女比は774対873、世代構成比は18-19歳29人・20代126人・30代178人・40代295人・50代268人・60代324人・70歳以上427人。

がん(悪性新生物)は他の傷病、例えば心疾患や脳血管疾患、肺炎などのような、治ゆ方法の発見・確立、治療法の改善をはじめとした医学の進歩に伴い致死率が減少し対処法が進む疾患と比べ、相対的に研究進捗の歩みが遅い。結果としてがんの発症率、そしてがんを起因とする死亡率は増加の一途をたどっている。

↑ 主要死因別にみた死亡率(人口10万対、人)(2017年)(再録)
↑ 主要死因別にみた死亡率(人口10万対、人)(2017年)(再録)

この「がん」について、回答者がどのような印象を持っているかに関して「怖い」か「怖くないか」の軸で、5つの選択肢「こわいと思わない」「どちらかといえばこわいと思わない」「どちらかといえばこわいと思う」「こわいと思う」「分からない」から1つ選んでもらったところ、「どちらかといえばこわいと思う」「こわいと思う」から成る「怖い派」だった人は71.8%に達した。多くの人が「がん」そのものに恐怖を覚えていることになる。

↑ がんに対する印象
↑ がんに対する印象

強い怖さを感じている人は3割後半、弱い怖さは3割前半で、強い怖さを感じる回答者の方が多い。また過去の調査結果と合わせた変移を見ると、強度・弱度の怖さを感じている人の比率に大きな変化は無く、少しずつだが怖い派が減っている動きを示している。

怖い理由は「死ぬかも」「周囲への負担」「痛い」「お金」


ではなぜがんを怖いと思うのだろうか。「怖い派」の人にその理由を、選択肢から複数回答形式で選んでもらったところ、もっとも多くの人が同意を示したのは「がんで死に至る場合があるから」だった。がんが怖いと感じている人のうち73.1%の人は「がんにより死のリスクが上乗せされる。だから怖い」と考えている。

↑ がんをこわいと思う理由の認識(がんに対する印象について「どちらかといえばこわいと思う」「こわいと思う」と答えた人に、複数回答)(2019年7月)
↑ がんをこわいと思う理由の認識(がんに対する印象について「どちらかといえばこわいと思う」「こわいと思う」と答えた人に、複数回答)(2019年7月)

他の病気同様、病症に気が付き治療を開始する時期が遅いと、治療そのものが治癒には間に合わない場合がある。見方を変えれば早期発見と治療により、患者の生存確率は大きく向上する。しかしながらがんは病症の自覚症状が他の病気と類似している場合も多く、素人には特定が難しい。けがによる切り傷とは勝手が違う。さらにがん発見の可能性を飛躍的に高めてくれるがん検診の受診率は、実はさほど高くない。厚生労働省の「国民生活基礎調査の概況」の2016年度版によれば、もっとも受診率が高い肺がん検診ですら、男性で51.0%・女性で41.7%に留まっている。

次いで多いのは「がんの治療や療養には家族や親しい友人などに負担をかける場合があるから」。これが52.4%。負担の具体的対象は記述されていないが、金銭的な負担はもちろんのこと、看護や手続きなどのサポートで必要となるリソース(時間、体力、気遣いなど)が該当すると考えられる。がん治療は長期間にわたる場合も多々あり、当然その分だけ周囲への負担も大きくなる。

3位には「がんそのものや治療により痛みなどの症状が出る場合があるから」で46.7%。がんの場合は治療時の痛みが多分に実態より上乗せする形で、あるいは強調する形で世間一般に浸透している感がある。そのため「がん治療は必ず悶絶するような痛みを伴い続ける」との認識をしている人が多い。だが他の病症に対する治療同様、すべてがそのような痛みを伴うものとは限らない。

4位は上位3位までとはやや性質が異なる理由「がんの治療が高額になる場合があるから」がついている。がん治療はまだまだ技術向上の過程、新医学の発見待ちなど開発途上にあり、公的保険が利かない治療法も多い。当然、高額の出費を強いられることもある。ある意味、2位の理由と被る部分もあるのかもしれない。

これを男女別に見ると、概して女性の方が回答率が高い。多くの観点でがんへの恐れを強く抱いていることが分かる。

↑ がんをこわいと思う理由の認識(がんに対する印象について「どちらかといえばこわいと思う」「こわいと思う」と答えた人に、複数回答)(男女別)(2019年7月)
↑ がんをこわいと思う理由の認識(がんに対する印象について「どちらかといえばこわいと思う」「こわいと思う」と答えた人に、複数回答)(男女別)(2019年7月)

特に「身近な人の負担」「痛みなどの症状」の点で、男性よりも大きく差をつけて高い値を示しているのが印象的。一方で「死に至る場合がある」の他に「仕事を長期間休む、辞めざるを得ない」の点では男性の方が高いが、これは男性の正規社員としての就労率が高いからに他ならない。

年齢階層別に見ると若年層-中年層の回答率が高い。

↑ がんをこわいと思う理由の認識(がんに対する印象について「どちらかといえばこわいと思う」「こわいと思う」と答えた人に、複数回答)(年齢階層別)(2019年7月)
↑ がんをこわいと思う理由の認識(がんに対する印象について「どちらかといえばこわいと思う」「こわいと思う」と答えた者に、複数回答)(年齢階層別)(2019年7月)

死への恐れはおおよそ若年層ほど高く、高齢層になるに連れて下がる。老衰など他の死因によるリスクも積み重なってくる、具体的な死との距離が近づく、さらには自分の身近な人で類似状況により実際に亡くなる事案と遭遇することもあるからだろう。他の項目は多分に若年層よりむしろ中年層の方が高めで、理由も理解できるものだが(例えば仕事の長期間休職などは、働き盛りで休職によるリスクが高まる)、後遺症や適切な医療機関を見つけるのが難しい可能性は高齢層も高い懸念を抱いている。

人の「恐れ」は既知のものに対する、実態のあるマイナス要因に向けられる場合以外に、未知のものに対する不安から生じるものがある。しかし死のリスクは何もしないでいるよりも、自ら正しい情報を調べ習得し、検査を定期的に受診し、場合によっては早期発見をすることで、大いに減らすことができる。検診で発見しない限り、治療ができないのはがんに限った話では無い。定期的な健康診断の中に、がん検診を含めることを是非ともお勧めする。


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