2019-1004今や日本で最大の死因として挙げられる「がん(悪性新生物)」。検診を受けることで発症を自覚し、適切な対処を取ることができ、リスクを確実に減らせるのだが、がん検診の受診率はまだまだ低い水準にある。その理由は何だろうか。内閣府大臣官房政府広報室が2019年9月27日に発表したがん対策・たばこ対策に関する世論調査によれば、最大の理由として挙げられたのは「時間が無い」だった。次いで「健康に自信があるから」「必要ならならいつでも受診できるから」が続いている(【発表リリース:がん対策・たばこ対策に関する世論調査】)。



がん検診受診率は5割台。若年層ほど低い傾向


今調査の調査要項は先行記事【がんが怖い人7割強、理由は「死に至る場合があるから」(最新)】を参考のこと。その記事にもある通り、がんも他の病気同様、病症を確認して治療をはじめる時期が遅いと、治療そのものが間に合わない場合が少なくない。そして「早期発見・早期治療」が大切なのも、他の疾病と同じ。ところが日本におけるがん検診の受診率はお世辞にも高くない。検査対象のがんの種類にもよるが(一度の検査で主要部位すべてのがんに関する確認ができるわけではない)、厚生労働省の「国民生活基礎調査の概況」の2016年度版によれば、もっとも受診率が高い肺がん検診ですら、男性で51.0%・女性で41.7%に留まっている

今調査ではがんの対象を特定せず、単にがん検診に関して受診をしたか否かを尋ねている(一応具体例として「胸や胃のレントゲン撮影やマンモグラフィ撮影などによるがん検診」と表現しているが、具体的設問では「こうしたがん検診を受けたことがあるか」と表現されている)。その結果としては、5割台が2年以内に受診したと回答した。最後に受診したのが2年前より前の人が1割強、そしてまだ一度も受診していない人も3割近くに達している。

↑ がん検診受診状況(属性別)(2019年7月)
↑ がん検診受診状況(属性別)(2019年7月)

女性特有の検診となる「子宮がん」「乳がん」の検診は基本的に2年おきに実施するものだが、それ以外の部位では毎年行うのが望ましいため、男女ともに「1年以内に受診」の回答が本来ならばあるべき回答。しかしながら該当者は5割足らずでしかない。男女別では男性の方が検診状況は進んでいる。本来ならば「子宮がん」「乳がん」の点で男性以上にがんに対する認識が強くなければならない女性の方が高くなるべきなのだが。

18歳から29歳の年齢層では「無し」の回答が極めて多いが、これは学生なども含まれており、仕方が無い面もある。しかし就業者ならば法定健診に含まれる場合もあり、そうでなくとも自治体などによって安価にて検診の機会は提供されることから、当事者の検診意識が低いと見ることもできる。また国によるがん検診の指針が子宮頸がんは20歳以上だが、肺がん・乳がん、大腸がんは40歳以上、胃がんは50歳以上となっているのも一因だろう(【厚生労働省・がん検診】)。もっとも後述する理由からは「時間が無い」との回答が多数を占めており、時間を確保する工夫を仕組みとして提供することが、若年層の検診率向上につながるものと考えられる。

40代以降は検診状況にあまり変わりは無い。がんを自らにも生じるかもしれないものとして真剣に認識するからだろう。また国の指針によるところも大きい。しかし見方を変えれば40代でも3割近く、50代以降でも2割前後は過去に一度もがん検診をしていない人が存在することになる。恐らくは以前に受けてそれきりの人も40代で1割近く、50代以降でも1割台が確認できる。

なぜ検診を受けないのか


それではなぜがん検診をしないのか。検診状況で「2年超前に受診」「無し」の回答者にその理由を尋ねたところ、もっとも多くの人が同意を示したのは「受診する時間が無い」だった。28.9%の人が受診に時間がかかる、多忙で時間を割り振ることができないのが、受診していない理由としている。

↑ がん検診を受けない理由の認識(複数回答)(2019年7月)
↑ がん検診を受けない理由の認識(複数回答)(2019年7月)

がん検診は対象となるがんの部位毎に受けねばならない。また、医療機関によっては一度に複数部位の検診はできず、複数部位の検査をしたい場合には時間・場所を変えて行う必要がある。たとえ検診の時間そのものが待機時間も含め数時間で済むとしても、平日仕事をしている人には各部位の検診毎に半日・一日の休みの確保が求められる。当然「受ける時間が無い」と回答する人が多いのも納得できる。

次いで多い回答率を示したのは「健康状態に自信があり必要性を感じないから」で25.0%。がんを罹患するのは何らかの形で体にトラブルが生じた結果であるとの認識なのか、あるいは健康体、若いうちには発症することは無いとの考えによるものだろう。実際には自覚症状としては健康体そのものでも、がんを発症している可能性はゼロとは言えないので、思い過ごしでしかないのだが。

3位の「心配な時にはいつでも医療機関を受診できるから」も「健康状態に自信があり必要性を感じないから」とほぼ同じ意味と考えられる。今項目は受診していない人に答えてもらっており、つまりは「今は心配していない(自分はがん罹患の可能性は無いと考えている)から受診していない」となるからである。

その次に多い回答率を示したのは費用負担、11.8%。多数の部位をくまなく検診すると数千円の負担が生じ、検査場所までの交通費も合わせると少額とは言い難い。しかしこれは各種医療制度(例えば年一回の公的な医療検査)を活用することで、最低限の金額に留めることができる。

「がんであると分かるのが怖いから」は9.2%。多分に因果関係の誤認によるもので、「検診したからがんを罹患する」のではなく「元々発症していた人が検査で確認できる」に過ぎない。放っておけば勝手に治癒する事例は無いに等しく、いわば虫歯と同じようなもの。単なる怖さからの逃げは、現実逃避でしかない。

男女、年齢階層別に見ると


これを男女別に見ると一部項目を除き、女性の回答率が高いのが確認できる。

↑ がん検診を受けない理由の認識(複数回答、男女別)(2019年7月)
↑ がん検診を受けない理由の認識(複数回答、男女別)(2019年7月)

同調査では「がんを怖いと思うか否か」も調査項目として挙げているが、男性より女性の方が「がんが怖い」と考えている人は多く、恐れる理由も多様。女性の方が男性よりも高い項目を確認すると、その女性の心理が反映される形となっている。怖いからこそ発症していると確認したらどうしようかと思い、検診を恐れてしまう、検診しなければいけないと思っているが、すぐに受信できるから油断してしまう、うっかりと忘れてしまう。がんへの一定の心構えを持った上で、検診を怠ってしまっている様子が分かる。

他方、時間や金銭のような具体的な余裕の無さ、自分の健康への過度の自信から来る検診忌避は男性の方が高い値が出ている。がんそのもの、そしてがん検診への優先順位は女性と比べ低く抑えられているようだ。

年齢階層別に見ると、それぞれの事情がおぼろげながらも浮かび上がってくる。

↑ がん検診を受けない理由の認識(複数回答、年齢階層別)(2019年7月)
↑ がん検診を受けない理由の認識(複数回答、年齢階層別)(2019年7月)

「時間の無さ」は若年層から中年層が高い値。高齢者には時間の余裕があり、検診も苦にならない。「経済的負担」もほぼ同じ動き。「健康への自信」は若年層と高齢層で高い。若年層はともかく高齢層で高いのは自信過多なのか、あるいはこれまでがんを罹患したことが無い人による経験則からの過信なのか。「必要ならばいつでも受診できる」の値も高齢層の方が高いが、がん検診では無く他の健康に関する点で医療機関に足を運ぶ機会が増えるからだろう。

また若年層では「がん検診そのものを知らないから」との値も高めに出ている。これはひとえに啓蒙不足によるものであり、関係方面のさらなる鋭意努力を求めたい。



若年層で高い値を示している項目は、啓蒙活動のさらなる促進と各種支援制度などの法整備で改善が期待できる。また時間が無いとの指摘も、就業者に対する法定健康診断にがん検診を組み込むことなどの工夫を凝らす手立てもある。

がんの治療は何よりも「がん」の発見が最重要課題。万一のことを考えれば、時間や費用など今件の上位回答におけるマイナス部分など、比較にもならないほどの小ささでしかない。また過度の自信でリスクを上乗せするのは愚行でしかない。面倒だと思わずに、定期的な検診をお勧めする。


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