2023-1014厚生労働省が2023年9月15日付で2022年分の確定報を発表した、人口動態調査における人口動態統計では、参考資料として熱中症による死亡者数の推移が掲載されていた。これは熱中症による死亡が毎年多数発生し、注目されているからだが、その一方で熱中症とは逆に寒さで命を落とす凍死については、特別な別途資料の類は用意されていない。そこで今回は人口動態調査の結果を用い、凍死による死亡者数の動向をいくつかの切り口で確認していくことにする(【令和4年(2022)人口動態統計(確定数)の概況】)。

増加傾向にある凍死による死亡者


今回の発表資料を基に、政府統計のデータベースe-Statから各値を精査したところ、凍死による死亡者は、ICD-10(国際疾病分類第10版)におけるX31(自然の過度の低温への曝露)を死因とするものと確認できる。熱中症がX30(自然の過度の高温への曝露)なので、その真逆となる。なお、あくまでも低温が死因であり、漫画などの表現でよく用いられるような、全身が凍って死に至るような状況に限らない。

e-Statから取得可能なデータは1999年以降。そこでまずは単純に、年単位での死亡者数の推移をまとめる。

↑ 凍死による死亡者数(人口動態調査、人)
↑ 凍死による死亡者数(人口動態調査、人)

凍死に至る原因は多様なため、その年の冬の寒さをはじめとする自然環境や経済状況など多数の環境が影響を与えると考えられ、その変化が数字にも反映されることになる。したがって大きなぶれが生じてしまっているが、原値でも次第に増加していくようすはうかがいしれる。

とはいえ、年ごとの気象状況によるぶれは否めない。そこで毎年の値に関して、その前年と前々年、つまり都合3年分の値を足して平均値を算出し、値を均す方法を用いた結果が次のグラフ。単年によるイレギュラーの影響を抑えることができる。

↑ 凍死による死亡者数(人口動態調査、該当年と過去2年を合わせた3年分の平均値、人)
↑ 凍死による死亡者数(人口動態調査、該当年と過去2年を合わせた3年分の平均値、人)

2009年まではほぼ800人前後で推移していたが、2010年以降は漸増。2013年を頂点として以後漸減するも2015-2016年で底を打ち、再び増加する傾向にある。ただ単純に増加するのではなく、数字的にうねりながらの増加のようだ。

男女別などで見る凍死での死亡者の動向


これを男女別に見たのが次のグラフ。やはり直近2022年分の原値と、過去2年分も合わせた上での平均値の双方について、年齢階層別に区分した上で男女別の値を確認する。

↑ 凍死による死亡者数(人口動態調査、年齢階層別・男女別、人)(2022年)
↑ 凍死による死亡者数(人口動態調査、年齢階層別・男女別、人)(2022年)

↑ 凍死による死亡者数(人口動態調査、該当年と過去2年を合わせた3年分の平均値、年齢階層別・男女別、人)(2022年)
↑ 凍死による死亡者数(人口動態調査、該当年と過去2年を合わせた3年分の平均値、年齢階層別・男女別、人)(2022年)

70代ぐらいまでは概して男性の方が凍死による死亡者数は多い。凍死といっても急に凍って亡くなるのではなく、いわゆる低体温症(体の中心部の温度が35度以下の状態)を経て、身体の機能が低下、さらには停止し死に至る。低体温症となる状況としては酩酊や飢餓、睡眠薬などの服用、特殊な病気によるものがあるが、男性はこれらのリスクが高いものと思われる(【体温と健康(テルモ)】)。

80代以降になると女性の方が死亡者数が増える層が多くなるが、これは単純にその年齢階層で存命している人数そのものが、女性の方が多いからに他ならない。むしろ年間で数百人もの80代以上の高齢者が、凍死(との認定の上で)亡くなっている事実に驚きを覚える人も多いはず。

凍死による死亡者の約8割は65歳以上


最後は経年における、年齢階層別のリスク変化について。要は昔と比べ現在では、どれほど凍死による死亡者が増減しているかに関して、年齢階層別に検証したもの。イレギュラーな動きを抑える目的で、該当年を含めた3年分の平均値を用いるため、一番古い値として取得可能な2001年分と、直近となる2022年における死亡者数の変化度合いを倍率で示したのが次のグラフ。

↑ 凍死による死亡者数(人口動態調査、該当年と過去2年を合わせた3年分の平均値を元にした2001年分から2022年分への変化、倍数)
↑ 凍死による死亡者数(人口動態調査、該当年と過去2年を合わせた3年分の平均値を元にした2001年分から2022年分への変化、倍数)

若年層は絶対数が少ないため値が跳ねやすいが、それでも1.00以下にとどまっており、近年にかけて死亡者が減少しているのが分かる。他方、高齢層では大きな増加を示しているのも確認できる。もちろん社会構造の高齢化に伴い、該当年齢階層の人数そのものが増加しているのは確かだが、20年強の間に人数が2倍も3倍も増加しているはずはなく、確実に高齢層における凍死による死亡リスクが高まったことが確認できる。

その結果として、各年の凍死による死亡者全体に占める高齢者の比率は増加傾向にある。

↑ 凍死による死亡者数(人口動態調査、該当年と過去2年を合わせた3年分の平均値を元にした各年合計における65歳以上の割合)
↑ 凍死による死亡者数(人口動態調査、該当年と過去2年を合わせた3年分の平均値を元にした各年合計における65歳以上の割合)

今や凍死による死亡者の8割強は65歳以上。今後もこの値は漸増していくことだろう。

凍死リスクは実際のものとなる前に、さまざまな前兆がある。また別途詳細を精査するが、自宅内で凍死することが多い。当人はもちろん、周辺関係者もまた、くれぐれも配慮を欠かさないよう、努力をしてほしいものである。


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