2020-0930現在もなお流行中でワクチンも治療薬も開発されていない新型コロナウイルス。人々の生活は巣ごもり化など大きな変化を余儀なくされている。今回は消防庁が発表している熱中症による救急搬送人員数を基に、新型コロナウイルスの流行が熱中症の発症にどのような影響を与えたのかを推測していくことにする(【消防庁:熱中症情報ページ】)。


発生場所の変化


まずは熱中症による救急搬送人員の発生場所について。要はどこで熱中症が発生し救急車で運ばれるような状況になったか。2020年の実情(6-8月)と、2017-2019年の3年分の実情の平均値(単年では気象状況などによるぶれが生じやすいため)の差を算出したのが次のグラフ。

なお「仕事場(1)」は「道路工事現場、工場、作業所など」、「仕事場(2)」は「田畑、森林、海、川など(農畜水産作業をしている場合のみ)」を意味する。

↑ 熱中症による救急搬送人員の発生場所(月別、人員数)(2020年の値から2017~2019年の平均値を引いたもの)
↑ 熱中症による救急搬送人員の発生場所(月別、人員数)(2020年の値から2017~2019年の平均値を引いたもの)

2018年は記録的な猛暑のために7月から搬送人員数も大幅に増えていたこと、2020年の7月は「令和2年7月豪雨」の発生などで降水量が多く、日照時間・気温ともに平年に比べてかなり低い値を示したこと(【7月の天候(気象庁)】)から、7月の値が大きなマイナス、つまり2020年の値が少なくなってしまっている。他方8月は記録的な高温を示したこと(【8月の天候(気象庁)】)から、大きなプラス、つまり2020年の値が多くなっている。一方で多くなった値を見ると、「住居」「道路」が多分に増加していることも確認できる。

一方、2017~2019年の平均値と2020年それぞれについて、全体比を算出したのが次のグラフ。

↑ 熱中症による救急搬送人員の発生場所(月別、全体比)(2017~2019年の平均値)
↑ 熱中症による救急搬送人員の発生場所(月別、全体比)(2017~2019年の平均値)

↑ 熱中症による救急搬送人員の発生場所(月別、全体比)(2020年)
↑ 熱中症による救急搬送人員の発生場所(月別、全体比)(2020年)

両者を比較すると「教育機関」「公衆(屋内)」「公衆(屋外)」では2020年の方が小さく、「道路」では2020年の方が大きくなっているのが確認できる。前者は足を運ぶ機会が少なかったため必然的に熱中症を発症する機会も減った、後者はマスク着用などによる負担が発症リスクを高めた結果だと推測できる。

また「住居」は6月と8月に限れば2020年の方が大きな値だが、これは巣ごもり化によるところが大きいのだろう。他方7月では2020年の方が小さいが、これは2018年の猛暑と2020年7月における冷夏によるものと思われる。

年齢階層別の変化


続いて年齢階層別の変化について。まずは2020年の実情(6-8月)と、2017-2019年の3年分の実情の平均値の差を算出したのが次のグラフ。

なお区分の詳細は次の通り。

・新生児…生後28日未満
・乳幼児…生後28日以上満7歳未満
・少年…満7歳以上満18歳未満
・成人…満18歳以上満65歳未満
・高齢者…満65歳以上

↑ 年齢階層別の熱中症による救急搬送人員(月別、人員数)(2020年の値から2017~2019年の平均値を引いたもの)
↑ 年齢階層別の熱中症による救急搬送人員(月別、人員数)(2020年の値から2017~2019年の平均値を引いたもの)

発生場所同様、2018年の猛暑と2020年7月の冷夏の影響で、7月は大きなマイナスが出てしまっている(-0、+0の値が出るのは、2017~2019年の平均値が整数ではないため)。他方、年齢階層別に見ると、7月のマイナス幅も8月のプラス幅も、おおよそ年が上になるに連れて大きな値が出ている。環境の変化に伴う熱中症の発生状況は、年が上ほど影響が出やすいということか。

一方、発生場所別同様に2017~2019年の平均値と2020年それぞれについて、全体比を算出したのが次のグラフ。

↑ 年齢階層別の熱中症による救急搬送人員(月別、全体比)(2017~2019年の平均値)
↑ 年齢階層別の熱中症による救急搬送人員(月別、全体比)(2017~2019年の平均値)

↑ 年齢階層別の熱中症による救急搬送人員(月別、全体比)(2020年)
↑ 年齢階層別の熱中症による救急搬送人員(月別、全体比)(2020年)

「少年」に該当する年齢では学校内行動で熱中症を発症する機会が多々あるため、普通は2017~2019年の平均値のように、6月は多め、7月、8月になるに連れて少なくなる傾向がある。しかし2020年は新型コロナウイルスの影響で休校をしている、登校しても熱中症を発症しそうな行動が控えられる傾向があるため、結果として値が抑えられたようである。似たような理由で「成人」も在宅勤務の増加により、ある程度値が低くなっているのが確認できる。2020年では2017~2019年の平均値のように6月から8月までの増加度合いも少なめとなっており、在宅勤務から通常の職場での勤務への復帰があまり生じていないことが推測される。

他方「高齢者」は2020年においては一律で増加。人数そのものが大きく減っている7月においても全体比では増えていることから、新型コロナウイルスによって変わった環境が、「高齢者」においては熱中症のリスクを上乗せすることになったようだ。



消防庁の発表データでは年齢階層別と発生場所別のクロスによるものが無いため、例えば「高齢者」の「住居」における熱中症による救急搬送人員の精査ができないのは残念ではある。とはいえ、今回のデータからだけでも、新型コロナウイルスによって変化した生活環境が、熱中症の発症にも大きな影響を与えたことは容易に推測できる。

来年の夏も同様の状況が続いているとは思えないが、一部の社会様式は新型コロナウイルスのワクチンや治療薬が開発された後でも継続することだろう。熱中症の発症リスクも過去とは違いを見せるようになるかもしれない。


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