新型インフルエンザイメージ厚生労働省は2009年4月25日・26日にかけて、メキシコ及びアメリカで発生した豚インフルエンザに関する状況をまとめたレポートやWHO(世界保健機構)の事務局長の発言の要約を発表した。現時点でメキシコ・アメリカ・カナダ・フランスやイギリスなどのヨーロッパ・イスラエル・ニュージーランドなどで類似症状者が報告され、確認中であるとのこと。なおWHOでは「ヒトからヒトへの感染が増加していることの証拠がある」を意味するフェーズ4への移行宣言は、現時点では情報収集が必要とのことで保留している。




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GoogleMapsにおける豚インフルエンザの報告があった場所のデータ。【ZAR大好きの忘ビロク2-金鉱株で恐慌突破】より

新型インフルエンザの流行状況に関するWHOの警報フェイズ一覧。状況の進展や事前計画活動の実施の必要性を告知するためのもので、現在はフェイズ3。
新型インフルエンザの流行状況に関するWHOの警報フェイズ一覧。状況の進展や事前計画活動の実施の必要性を告知するためのもので、現在はフェイズ3。

今件は2009年4月24日、WHOの報道官が「アメリカとメキシコで最近、豚から人間、人間から人間への感染が確認された『豚インフルエンザ』が発症し、24日時点で60人ほどの死亡が確認されている」と発表されたことに端を発する。CDC(アメリカ疾病予防管理センター)では今件ウイルスは「豚・鳥・ヒトの混合型」というこれまでに見つかっていないタイプのもので、感染力は現在のところ不明。

各報道はこれを受けて最新情報を逐次配信する姿勢を見せており、【NIKKEI NeT】【ヤフートピックス】でも特設コーナーが設置されている。

厚生労働省でも土日の休日にも公式サイト上で情報を更新する異例の体制で対応、25日には【メキシコ及び米国におけるインフルエンザ様疾患の発生状況について】で現時点における認識された情報をまとめると共に、翌日26日には【WHOのマーガレット・チャン事務局長4月25日発言(仮訳)】を掲載している。それぞれについて、気になるポイントを抽出・まとめてみると次の通り。

メキシコ及び米国におけるインフルエンザ様疾患の発生状況について
・現時点では遺伝学的に同一の豚インフルエンザ(H1N1亜型)が拡散している模様。
 メキシコでは3月18日に初めて病症が確認され、現時点で854例/死亡59例、アメリカでは7例+疑い9例などが確認済み(※最新データは上記マップなどを参照のこと)
・情報共有連絡室の設置(政府レベルでも25日午前に首相官邸に情報連絡室を設置済み)
・各種情報告知、該当地域への渡航に関して注意喚起
・電話相談窓口の設置(03-3501-9031)
・CDCの対応策。「せきやくしゃみはティッシュで鼻と口を覆い、使ったらごみ箱にすてる」「頻繁に石けん水やアルコール製剤で手洗いをする」「健康状態の悪い人との濃厚接触を避ける」「具合が悪くなったら外出をひかえ、他のものとの接触を避ける」「目・鼻・口に触らない」「呼吸器系や身体の痛み、吐き気、嘔吐や下痢など健康状態が悪化した場合はかかりつけ医に連絡」
・豚インフルエンザ
 過去においては豚と直接接触した場合に感染する事例がある。
 人から人への感染報告例もあるが集団発生には至っていない。
 治療薬としてはオセルタミビル(いわゆる「タミフル」)・ザナミビル(リレンザ)の投与が推奨。
 人向けのワクチンは現在のところ無い。
 豚肉、豚肉の加工物を食べても感染しない。71度の豚肉の調理で該当ウイルスは死滅する。
 豚インフルエンザ(H1N1亜型)と人のH1N1亜型のウイルスは別物。通常の人向けインフルエンザワクチンが豚インフルエンザの感染防止には効果をなさない。

WHOのマーガレット・チャン事務局長4月25日発言(仮訳)
・現時点では情報が不十分。しかし「国際的に懸念される公衆の保健上の緊急事態」に該当すると認識。各国に監視強化勧告。
・インフルエンザパンデミック警告レベルが現状の「3」で妥当かどうかの判断にはさらなる情報が必要。

患者が確認されたイギリスの【BBC News】では最新情報として、WHOの関係者の話として「パンデミックになる可能性がある」としながらも、これまでの「鳥インフルエンザから発現する新型インフルエンザへの備えが功を奏し、国際社会における防備体制は決して悪くは無い」と伝えている。また、発症地とされるメキシコでは、輸出品のひとつである豚肉の出荷減(すでにロシアでは輸出停止措置を取っている。日本でも農林水産省が4月24日以降[精密検査をすることを決定している])、観光などの面で経済を圧迫するのではないかという懸念も生じているとのこと。

なお今件に関連して、似たようなパンデミック事例として1918年から1920年に流行した「スペインかぜ」の事例が色々なデータと共に流布されているが(当方も「死亡率7%前後」などという言い回しを目にして驚いたことがある)、[東京都健康安全研究センターのデータ]によれば、衛生面・情報伝達面で今とは比べ物にならないほど遅れていた当時で、日本における患者数は約2380万人・死亡者数は約38万9000人。患者100人あたりの死亡率は1.63%・全人口当たりでは0.676%。正しい情報の確認と認識が必要だ。



メキシコでは情報の収集と防疫体制の確保で軽い混乱状態にあるようだが、アメリカのホワイトハウスでは「アメリカ人がパニックに陥る必要は無い"There is no need for Americans to panic"」と伝えており、厚生労働省もリリースの最後に「国民の皆様には、正しい情報に基づいた冷静な対応をお願いします」と語っている。

残念ながらここぞとばかりに不安をあおり、人々の関心をひきつけようとする報道も見受けられる。中には上記「スペインかぜ」の事例をもとに、同じ比率で患者・死亡者が出るのではという予測を確定事項であるかのように喧伝し、読み手にパニックを引き起こさせようとしているものもある。しかし現時点の情報をまとめた限りでは「予防ワクチン」はまだ開発されていないものの、治療薬はすでに確認済みであり、(当時から飛躍的に進歩している技術・インフラを元に)適切な情報・物資の伝達と対処がなされれば、たとえ広範囲に広がったとしても影響は最小限に抑えられる。

読者におかれては正しい情報に目を通し、これまでの「鳥インフルエンザを発現とする新型インフルエンザへの備え」を再確認すると共に、(ゴールデンウィークを間近にひかえて色々と葛藤もあるだろうが)「該当地域への渡航に対する注意喚起」を考慮した行動をするのが、もっとも賢い行動スタイルと思われる。


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