
●「豚インフルエンザ」とは

新型インフルエンザが生まれるまでのプロセス。【BBC NEWS】で配信されていたものを再構築したもの。
今回広範囲に広まった「豚インフルエンザ」を発現体とする新型インフルエンザは、豚・ヒト・鳥のインフルエンザウイルス(N1N1型)から生まれた新型のもの。元々豚は豚自身だけでなく鳥や人のインフルエンザウイルスにも容易に感染するため、それらが一つの固体で遺伝子の再集合を行い、今回の新型インフルエンザウイルスが発現したものと推定されている(このように複数種のウイルスが遺伝子的にミックスされて新しい種が生まれることを抗原不連続変移と呼ぶ)。
今回問題視されているのは、このインフルエンザがヒトからヒトに感染する性質を持っているため。人間の移動は鳥や豚以上に活発かつ広範囲であるため、感染が急速に広まる可能性を秘めている。
なお通常のインフルエンザ(季節性インフルエンザ)そのものと発症時の傾向は変わらない。すなわち、熱、せき、ノドや体の痛み、寒気、そして疲労感などである。
●「豚インフルエンザ」と「メキシコインフルエンザ」
イスラエルでは4月27日に、今件ウイルスについてユダヤ教で食することを禁じられている「豚」という言葉を使わずに済むように、最初に公知された国の名前を用いて「メキシコ・インフルエンザ(Mexican flu)」と命名した(【AFP】)。イスラム圏でも同様の措置が取られると思われる。また、上記にあるように、豚だけでなくヒトや鳥のウイルスも起源として認められているため、種類上も「豚インフルエンザ」という名称は適切ではないという意見もある。じきに名前そのものの入れ替えも行われることだろう。
●効く薬はあるし、メキシコ以外では死者は出ていない
タブロイド紙などの見出しにはパニックだの死者多数だのという言葉が踊り、恐怖感をマキシマムまであおっているが、先の【厚生労働省、豚インフルエンザに関する情報を公開・WHOはフェーズ3を現時点では維持】で触れているように、
この3点に留意する必要がある。つまり少なくとも、医療施設や制度が完備されている国(例えば日本)なら、安全度は極めて高いと断じて良い。分かりやすく言うと、通常の季節性インフルエンザにかかって治療してもらえる体制が整っていれば問題なしというわけだ(もちろん今件の新型インフルエンザの場合は、発症が疑われた・確認された場合は指定の特定病院へ行かねばならない。一般病院への来院は厳禁。感染を広げてしまう)。
なぜメキシコにおいてのみ多数の死者が出ているのか。これについては【BBC News】で推測記事が出ているが、今件の「豚インフルエンザウイルス」に加えて、メキシコの風土病が加わり、死亡率を高めたのではないかとする話が出ている。また、日頃の衛生・防疫体制や、ウイルス発現のもとになったヒトインフルエンザH1N1型への抗生のあるなし(要は季節性インフルエンザへのワクチンの摂取の有無)が状況の悪化の有無に関わりがあるのではないかとする話もある。
ともあれ、発症の公式確認から一週間しか経過していない現在においては、不明な点が多いのは事実。そして現時点で上記にあるような事柄が判明し、数字として出ているのもまた事実。
●「サイトカインストーム」
メキシコの犠牲者の多くは若年層(25-45歳)でしめられている。当方も含む素人考えでは「体力のない子どもや高齢者の方が高リスクでは」ということになるのだが、実際は異なる。これは「サイトカインストーム」という症状が原因によるもの。
サイトカインとは細胞から作られるたんぱく質のことで、免疫や炎症などに関連する情報を伝達する。これは体の免疫機能を調整し感染症を防ぐ働きを持つのだが、インフルエンザなどが引き金でこのサイトカインが過剰に生産されてしまい、気道閉塞や多臓器不全など、アレルギー反応に近い症状を起こしてしまうことがある。これを「サイトカインストーム」と呼んでいる。
つまり元々の免疫機能が活発な人の方がサイトカインストームを引き起こしやすいため、今回の新型インフルエンザでも多くの若年層が(恐らくはサイトカインストームが原因で)亡くなった人が多いと思われる。言い換えれば「免疫機能が働きすぎて、それが元で健康を害し、死亡にいたる」というわけだ。実際、[東京都健康安全研究センターにおける1918-1920年のスペイン風邪を含むインフルエンザのデータ]でも、死者の年齢分布では0-2歳の乳幼児(体力・免疫力が極端に劣っている)以外は、20-35歳の若年層が多くを占めている。

インフルエンザによる死亡者の世代マップ(1918-1920年のスペイン風邪の時期を含む。その時期だけ極端に色が変化し、数が増加しているのが分かる)
●警告レベルとフェーズ4、パンデミック

フェーズと現時点の状況(数字の部分は当方で書き換え。厚生労働省の図はいまだに3のままなので)
先日世界の新型インフルエンザの警戒フェーズについてWHOがフェーズを「3」から「4」に引き上げたことを伝えた(【WHO、豚インフルエンザに関する警戒フェーズを4に引き上げ】)。これは「ヒト-ヒト感染が増加していることの証拠がある」を意味し、いわゆる「パンデミック」の2歩手前の状態にある。軍事的警戒レベルならデフコン3とデフコン2の間くらいだろうか。この「フェーズ4」は2005年に制度が作られてから初めての発動となる。どこぞで「スペイン風邪ですらフェーズ4は無かった」と吹聴するモノもいたが、制度が2005年に作られたのだから、スペイン風邪でフェーズ云々が発動されるはずがない(それどころかWHOすら創設されていない(1948年))。
この「フェーズ」は各国に現況を的確に告知すると共に、各国の対応における「裏づけ」にもなる。「WHOでフェーズ4が発動されたので、所定の決まりに基づき対策を実働します」というあんばいである。
現況を見るに、フェーズ5、そしていわゆるフェーズ6・パンデミック期に移行する可能性はゼロとはいえない。後述する世界地図が感染確認・調査中の印で埋められていけば、5、そして6に移行する宣言がなされるかもしれない。
しかしここで確認しておきたいのは、フェーズ4、5、そして6=パンデミックにおいても、「ヒト-ヒト感染の確認」であり、死亡者とは連動していないという事実である。今回の新型インフルエンザは上記にあるように、適切な処置を施せばほとんどの人が回復に向かうという現実がある。そして治療薬はすでに、大量の在庫として存在している。
さらに元々季節性インフルエンザでも死亡者は毎年生じている(日本の場合、インフルエンザを直接起因とする数は、1970年代前半までは毎年数百-数千人、それ以降は数百-千人程度)。確率論的に考えれば、感染者そのものが爆発的に増えれば割合が小さくとも母体数が大きいため、該当者そのものの数は増加する。しかしこれも(適切な対処法がある限り)通常のインフルエンザと同レベルになることが予想される。
●サイト上の情報収集
【メディア・パブ】では先に当サイトが紹介した地図もあわせ、2種類の感染マップを掲載・紹介している。
View 2009 Swine Flu (H1N1) Outbreak Map in a larger map
イギリスのコンピュータサイエンティストL R氏によるマップ。【直接リンクはこちら】。
あとは以前の記事でも紹介した、【NIKKEI NeT】や【ヤフートピックス】、さらには【厚生労働省の新型インフルエンザ対策ページ】あたりに目を通しておくとよいだろう。
※二つのマップを同時に1画面上に表示させるとブラウザによってはフリーズする可能性があることが確認されたため、一つ目のマップは省略します。直接リンク(【直接リンクはこちら】)でご覧頂くか、以前掲載した記事でご確認下さい。
個人レベルで出来ることについては上記の厚生労働省の関連ページ内にある【個人、家庭及び地域における新型インフルエンザ対策ガイドライン(PDF)】が参考になる。要は通常のインフルエンザ対策の延長にあり、いくつかを抜粋すると、
などが挙げられる。具体的な備蓄品などについては【新型インフルエンザへの食料品など家庭備蓄品を考察する(1)前書きと事前知識】なども参考にしてほしい。
繰り返しになるが、もっとも重要なのは「正しい情報を元に冷静な行動を取ること」に他ならない。くれぐれも心しておこう。

新型インフルエンザが生まれるまでのプロセス。【BBC NEWS】で配信されていたものを再構築したもの。
今回広範囲に広まった「豚インフルエンザ」を発現体とする新型インフルエンザは、豚・ヒト・鳥のインフルエンザウイルス(N1N1型)から生まれた新型のもの。元々豚は豚自身だけでなく鳥や人のインフルエンザウイルスにも容易に感染するため、それらが一つの固体で遺伝子の再集合を行い、今回の新型インフルエンザウイルスが発現したものと推定されている(このように複数種のウイルスが遺伝子的にミックスされて新しい種が生まれることを抗原不連続変移と呼ぶ)。
今回問題視されているのは、このインフルエンザがヒトからヒトに感染する性質を持っているため。人間の移動は鳥や豚以上に活発かつ広範囲であるため、感染が急速に広まる可能性を秘めている。
なお通常のインフルエンザ(季節性インフルエンザ)そのものと発症時の傾向は変わらない。すなわち、熱、せき、ノドや体の痛み、寒気、そして疲労感などである。
●「豚インフルエンザ」と「メキシコインフルエンザ」
イスラエルでは4月27日に、今件ウイルスについてユダヤ教で食することを禁じられている「豚」という言葉を使わずに済むように、最初に公知された国の名前を用いて「メキシコ・インフルエンザ(Mexican flu)」と命名した(【AFP】)。イスラム圏でも同様の措置が取られると思われる。また、上記にあるように、豚だけでなくヒトや鳥のウイルスも起源として認められているため、種類上も「豚インフルエンザ」という名称は適切ではないという意見もある。じきに名前そのものの入れ替えも行われることだろう。
●効く薬はあるし、メキシコ以外では死者は出ていない
タブロイド紙などの見出しにはパニックだの死者多数だのという言葉が踊り、恐怖感をマキシマムまであおっているが、先の【厚生労働省、豚インフルエンザに関する情報を公開・WHOはフェーズ3を現時点では維持】で触れているように、
・治療薬としてオセルタミビル(タミフル)・ザナミビル(リレンザ)の投与が推奨され、実際に効果を発揮している。そしてそれらの治療薬は(鳥インフルエンザを発現体とする新型インフルエンザへの備えもあり、)十分にストックが用意されている。
・メキシコでは死者が出ているが、それ以外の発生確認地域では死者は無く、患者も適切な処置で回復に向かっている。
・豚肉を食しても感染しない。ウイルス自身も71度の熱で死滅する。
・メキシコでは死者が出ているが、それ以外の発生確認地域では死者は無く、患者も適切な処置で回復に向かっている。
・豚肉を食しても感染しない。ウイルス自身も71度の熱で死滅する。
この3点に留意する必要がある。つまり少なくとも、医療施設や制度が完備されている国(例えば日本)なら、安全度は極めて高いと断じて良い。分かりやすく言うと、通常の季節性インフルエンザにかかって治療してもらえる体制が整っていれば問題なしというわけだ(もちろん今件の新型インフルエンザの場合は、発症が疑われた・確認された場合は指定の特定病院へ行かねばならない。一般病院への来院は厳禁。感染を広げてしまう)。
なぜメキシコにおいてのみ多数の死者が出ているのか。これについては【BBC News】で推測記事が出ているが、今件の「豚インフルエンザウイルス」に加えて、メキシコの風土病が加わり、死亡率を高めたのではないかとする話が出ている。また、日頃の衛生・防疫体制や、ウイルス発現のもとになったヒトインフルエンザH1N1型への抗生のあるなし(要は季節性インフルエンザへのワクチンの摂取の有無)が状況の悪化の有無に関わりがあるのではないかとする話もある。
ともあれ、発症の公式確認から一週間しか経過していない現在においては、不明な点が多いのは事実。そして現時点で上記にあるような事柄が判明し、数字として出ているのもまた事実。
●「サイトカインストーム」
メキシコの犠牲者の多くは若年層(25-45歳)でしめられている。当方も含む素人考えでは「体力のない子どもや高齢者の方が高リスクでは」ということになるのだが、実際は異なる。これは「サイトカインストーム」という症状が原因によるもの。
サイトカインとは細胞から作られるたんぱく質のことで、免疫や炎症などに関連する情報を伝達する。これは体の免疫機能を調整し感染症を防ぐ働きを持つのだが、インフルエンザなどが引き金でこのサイトカインが過剰に生産されてしまい、気道閉塞や多臓器不全など、アレルギー反応に近い症状を起こしてしまうことがある。これを「サイトカインストーム」と呼んでいる。
つまり元々の免疫機能が活発な人の方がサイトカインストームを引き起こしやすいため、今回の新型インフルエンザでも多くの若年層が(恐らくはサイトカインストームが原因で)亡くなった人が多いと思われる。言い換えれば「免疫機能が働きすぎて、それが元で健康を害し、死亡にいたる」というわけだ。実際、[東京都健康安全研究センターにおける1918-1920年のスペイン風邪を含むインフルエンザのデータ]でも、死者の年齢分布では0-2歳の乳幼児(体力・免疫力が極端に劣っている)以外は、20-35歳の若年層が多くを占めている。

インフルエンザによる死亡者の世代マップ(1918-1920年のスペイン風邪の時期を含む。その時期だけ極端に色が変化し、数が増加しているのが分かる)
●警告レベルとフェーズ4、パンデミック

フェーズと現時点の状況(数字の部分は当方で書き換え。厚生労働省の図はいまだに3のままなので)
先日世界の新型インフルエンザの警戒フェーズについてWHOがフェーズを「3」から「4」に引き上げたことを伝えた(【WHO、豚インフルエンザに関する警戒フェーズを4に引き上げ】)。これは「ヒト-ヒト感染が増加していることの証拠がある」を意味し、いわゆる「パンデミック」の2歩手前の状態にある。軍事的警戒レベルならデフコン3とデフコン2の間くらいだろうか。この「フェーズ4」は2005年に制度が作られてから初めての発動となる。どこぞで「スペイン風邪ですらフェーズ4は無かった」と吹聴するモノもいたが、制度が2005年に作られたのだから、スペイン風邪でフェーズ云々が発動されるはずがない(それどころかWHOすら創設されていない(1948年))。
この「フェーズ」は各国に現況を的確に告知すると共に、各国の対応における「裏づけ」にもなる。「WHOでフェーズ4が発動されたので、所定の決まりに基づき対策を実働します」というあんばいである。
現況を見るに、フェーズ5、そしていわゆるフェーズ6・パンデミック期に移行する可能性はゼロとはいえない。後述する世界地図が感染確認・調査中の印で埋められていけば、5、そして6に移行する宣言がなされるかもしれない。
しかしここで確認しておきたいのは、フェーズ4、5、そして6=パンデミックにおいても、「ヒト-ヒト感染の確認」であり、死亡者とは連動していないという事実である。今回の新型インフルエンザは上記にあるように、適切な処置を施せばほとんどの人が回復に向かうという現実がある。そして治療薬はすでに、大量の在庫として存在している。
さらに元々季節性インフルエンザでも死亡者は毎年生じている(日本の場合、インフルエンザを直接起因とする数は、1970年代前半までは毎年数百-数千人、それ以降は数百-千人程度)。確率論的に考えれば、感染者そのものが爆発的に増えれば割合が小さくとも母体数が大きいため、該当者そのものの数は増加する。しかしこれも(適切な対処法がある限り)通常のインフルエンザと同レベルになることが予想される。
●サイト上の情報収集
【メディア・パブ】では先に当サイトが紹介した地図もあわせ、2種類の感染マップを掲載・紹介している。
View 2009 Swine Flu (H1N1) Outbreak Map in a larger map
イギリスのコンピュータサイエンティストL R氏によるマップ。【直接リンクはこちら】。
あとは以前の記事でも紹介した、【NIKKEI NeT】や【ヤフートピックス】、さらには【厚生労働省の新型インフルエンザ対策ページ】あたりに目を通しておくとよいだろう。
※二つのマップを同時に1画面上に表示させるとブラウザによってはフリーズする可能性があることが確認されたため、一つ目のマップは省略します。直接リンク(【直接リンクはこちら】)でご覧頂くか、以前掲載した記事でご確認下さい。
個人レベルで出来ることについては上記の厚生労働省の関連ページ内にある【個人、家庭及び地域における新型インフルエンザ対策ガイドライン(PDF)】が参考になる。要は通常のインフルエンザ対策の延長にあり、いくつかを抜粋すると、
・咳、くしゃみの際は、ティッシュ等で口と鼻を被い、他の人から顔をそらすこと
・使ったティッシュは、直ちにゴミ箱に捨てること
・咳やくしゃみ等の症状のある人には必ずマスクを着けてもらうこと
・咳やくしゃみをおさえた手、鼻をかんだ手は直ちに洗うこと
・帰宅後や不特定多数の者が触るようなものに触れた後の手洗い・うがい を日常的に行うこと
・手洗いは、石鹸を用いて最低15秒以上行うことが望ましく、洗った後は、清潔な布やペーパータオル等で水を十分に拭き取ること
・感染者の2メートル以内に近づかないようにすること
・流行地への渡航、人混みや繁華街への不要不急な外出を控えること
・十分に休養をとり、体力や抵抗力を高め、日頃からバランスよく栄養をとり、規則的な生活をし、感染しにくい状態を保つこと
・災害時のように最低限(2週間程度)の食料品・生活必需品等を備畜しておくこと
・使ったティッシュは、直ちにゴミ箱に捨てること
・咳やくしゃみ等の症状のある人には必ずマスクを着けてもらうこと
・咳やくしゃみをおさえた手、鼻をかんだ手は直ちに洗うこと
・帰宅後や不特定多数の者が触るようなものに触れた後の手洗い・うがい を日常的に行うこと
・手洗いは、石鹸を用いて最低15秒以上行うことが望ましく、洗った後は、清潔な布やペーパータオル等で水を十分に拭き取ること
・感染者の2メートル以内に近づかないようにすること
・流行地への渡航、人混みや繁華街への不要不急な外出を控えること
・十分に休養をとり、体力や抵抗力を高め、日頃からバランスよく栄養をとり、規則的な生活をし、感染しにくい状態を保つこと
・災害時のように最低限(2週間程度)の食料品・生活必需品等を備畜しておくこと
などが挙げられる。具体的な備蓄品などについては【新型インフルエンザへの食料品など家庭備蓄品を考察する(1)前書きと事前知識】なども参考にしてほしい。
繰り返しになるが、もっとも重要なのは「正しい情報を元に冷静な行動を取ること」に他ならない。くれぐれも心しておこう。
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