南オーストラリア州イメージ先日ソーシャルブックマークの一つ【newsing】で気になるデータを教えてもらった。先日【インフルエンザ、正式に「流行入り」・大部分は新型】でも触れたように、日本では本格的流行期に突入した新型インフルエンザ(インフルエンザA(H1N1))について、南半球にあるため北半球の日本や欧米とは異なり先に「秋季・冬季での流行」に遭遇しているオーストラリアの南オストラリア州に関する、感染状況を指し示すグラフだ。先進国の秋季・冬季における新型インフルエンザ感染者数の動向を推測する上で、貴重なデータといえるので、ここで確認をしておくことにする。



南オーストラリア州イメージ南オーストラリア州はオーストラリア中央南部に位置する州で、人口は約156万人(2006年)。州都はアデレード。ご存知の通り南半球に位置する(医療機関・輸送・情報伝達機関が普及しているという意味での)先進諸国オーストラリアの一州で、日本やアメリカ、ヨーロッパなどの北半球諸国とは反対に季節が進行していく。つまり日本では冬に当たる12月は、オーストラリアでは夏に、真夏に当たる8月は冬になるわけだ。よくオーストラリアの状況を指し示すカットとして「サンタクロースがサーフボードに乗ってやってくる」写真を見かけるが、あれはオーストラリアのクリスマスが夏に当たるため。日本であれをやったら3分でサンタクロースは風邪をひいてしまう。

さて、肝心のグラフが掲載されているページだが、[南オーストラリア州の公的医療部門の公式サイト(http://www.dh.sa.gov.au/pehs/)]内にある、[注意すべき病気のまとめページ(伝染病対策部)(http://www.dh.sa.gov.au/pehs/notifiable-diseases-summary/)]内[インフルエンザ関連のページ(http://www.dh.sa.gov.au/pehs/notifiable-diseases-summary/flu_charts.htm)]。こちらには2001年から2008-2009年(現在進行形)における、インフルエンザ(東京都のデータと同じく、季節性・新型双方を含む)の感染者数などがグラフ化されている。いつもの当サイトなら元データを使って新たにグラフを生成するところなのだが、数字データは公開されていなかったので、掲載されているグラフの一部をそのまま転載する。

南オーストラリア州における2008年(昨年)のインフルエンザ診断・医療行為数グラフ
南オーストラリア州における2008年(昨年)のインフルエンザ診断・医療行為数グラフ

南オーストラリア州における2008-2009年(現在)のインフルエンザ診断・医療行為数グラフ
南オーストラリア州における2008-2009年(現在)のインフルエンザ診断・医療行為数グラフ

いくつか説明が必要だろう。各グラフで縦軸は患者数(診断数)、横軸は週単位での時間軸を示している(※上の2008年のは1年分のみ、下の2008-2009年は2008年と2009年の2年分が掲載されていることに注意)。人間が罹患するインフルエンザは主にA・Bの2種類に分類される。そしてグラフ上では

・棒グラフ……黄色はインフルエンザA、緑はインフルエンザBの診断数
・折れ線グラフ……青色(▲)は一般開業医(家庭医(GP))で対応された診断数、ピンク(×)は救急病院で対応された診断数

を示す。元ページの経年グラフを見れば分かるが、毎年流行する季節型インフルエンザはA・B、およびその混合型とさまざまで、棒グラフの色が黄一色の時もあれば、緑と黄色が混在している時もある。そして今回の新型インフルエンザは、「インフルエンザA(H1N1)」の名前からも分かるように、インフルエンザAに該当する。2008-2009年の棒グラフが黄色ばかりになっているのはそのせいだ(東京都のデータが「新型」「季節性」を合わせてインフルエンザのデータとして公開されているのと同じ。幾分は季節性インフルエンザも含まれているが、後述するように数が桁違いなので、ほとんどは新型インフルエンザと断じて良い)。

去年と今年のグラフ、そして元ページの、例えば2003年のグラフを見比べて、「確かに新型インフルエンザの影響で黄色の棒が目立つが、大きな違いはないじゃないか」と思われるかもしれない。しかし良く左端の縦軸を見てほしい。2008年までのグラフの縦軸は最大部分で50-80。それに対して直近の2008-2009年は最大が1200。15-24倍の違いがある。つまりそれだけ「季節性インフルエンザのみの流行時期と比べて診断数が多い」ことを意味している。特に2008-2009年のグラフにおいて、左側、すなわち2008年の「季節性インフルエンザによる診断数」と、右側2009年の「季節性+新型インフルエンザの診断数」の差を見れば、いかに新型インフルエンザの診断数が多いかが分かる。

それも含めて最新データを元に気になる点、気がつく点を箇条書きにすると、

・通年のインフルエンザ流行時の診断数に比して15-24倍強の診断数。
・診断数の増加は
 「第一段階……4-5週間(2009年5月末まで)」
 「第二段階……4-5週間(2009年6月中旬くらいまで)」
 「第三段階……8週間前後(2009年8月中旬くらいまで、大流行期)」
 「第四段階……現在進行中(終息期?)」に段階分けされる。
 という推移を示している。

と、なる。どこまで日本の状況がこれに当てはまるかは不明である(人口構成比においては、オーストラリアは若年層の割合が日本よりも多い)。また、季節性インフルエンザの流行もグラフ全体を押し上げていることも頭に入れておく必要がある。しかし、冒頭でふれたように(医療機関・輸送・情報伝達機関が普及しているという意味での)同じ先進諸国の一州である南オーストラリア州のデータは参考に値するものであるとみて問題ない。

この南オーストラリア州のデータからは、今後日本でも秋季・冬季に至るにつれて、診断数=感染者数が急増するかもしれないこと、その場合は似たような傾向を示す可能性が高いことを推し量ることができる。日本の現時点が第一段階にあるのか、すでに第二段階に達しているのかは不明だが(当サイトで追いかけている東京都の定点観測データや、【国立感染症研究所の専用ページ】でのデータ推移を見守る必要があるだろう)、最大限に見積もって18週先に該当する今年末、あるいは季節性インフルエンザの流行が落ち着く来年春までは、各種「公的機関・専門部署が発する」情報に最大限の注意を払う必要があることだけは間違いない。



最後に気になる点と留意点を1つずつ。まず気になる点だが、上記グラフにおいて昨年度までのグラフは棒グラフと折れ線グラフがほぼかぶさる状態だったものの、今年においては棒グラフの部分がかなり上まで伸びている一方で、その伸びに折れ線グラフが追い付いていない。もちろん絶対数で見れば折れ線グラフも昨年の値よりかなり増えてはいるが、それでも棒グラフの上値と比べればかなりの差がみられる。これは医療機関が対応しきれていないのか、あるいは医療機関が対応するまでも無く自宅安静を指示されたのかどちらかかと思われる。このグラフを見るにつけ思い出されるのが、【子供と妊婦と新型インフルエンザ】でも触れている、沖縄県ではすでに診断者側の身勝手な判断で医療機関側がパンク寸前に陥っているという報道。くれぐれも各人は「正しい」判断と対処をしてほしいものである。

留意点としては、(後日改めてまとめるが)8月28日に厚生労働省から発表された「新型インフルエンザワクチンに関する意見交換会」内資料などにもあるように(【該当ページ】)、現在流行している新型インフルエンザは弱毒性のものであり、毒性は季節性インフルエンザとほぼ変わらないこと(感染力はいくぶん高いと報告されている)。つまり、通常の季節性インフルエンザに立ち向かえるだけの体力・健康状態を保っているのなら、慌てる必要はまったくない。かねてから言われているように(周囲に広まらせないように)電話連絡をした上で診断を受け、各種対抗薬を処方してもらうことで十分以上に対応できる。あとは個人個人が普通のインフルエンザ同様に「うがい・手洗い」「体力・健康状態の維持」「人混みは出来る限り避ける」などの対応策を打つことで対策は十分。

もちろん糖尿病や内臓疾患、妊婦、心臓関係の疾患を持つ人はリスクが高くなるので十分以上に注意しなければならないが、これは(あまり知られていないことではあるが)一般の季節性インフルエンザでも同じこと。

ともあれ、新型インフルエンザに対する正念場はこれから。過剰反応を示さず、逆に油断することなく、冷静沈着に一人ひとりができることを、正しい判断のもとに行ってほしいものだ。